90年代アメリカ

映画「ジュリアン」感想と考察(後半ネタバレあり)ハーモニー・コリン監督作品

「ジュリアン」はどんな映画?

ナツカレー
ナツカレー
本ページはアフィリエイト広告を利用しています

今回、ご紹介する作品は「ジュリアン」です。

この作品はハーモニー・コリン監督の第2作目で、前作「ガンモ」公開から2年後の1999年に公開された作品です。


ジュリアン [DVD]

目次

作品情報

 

監督ハーモニー・コリン
製作年1999年
製作国アメリカ
キャストユエン・ブレムナー(ジュリアン役)
キャストクロエ・セヴィニー(パール役)
上映時間94分

あらすじ

精神分裂症で盲学校の教師であるジュリアンと、共に生活している家族の日常を描いています。

主人公のジュリアンはハーモニーコリン監督の実の叔父がモデルで、精神を病む人を公平に描きたかったと、監督は話しています。

撮影当初は脚本が存在していましたが、俳優の即興演技を重要視し、セリフをすべて削りました。

そのため、監督は状況説明だけして、セリフや演技は俳優が即興でしています。

ナツカレー
ナツカレー
ていうか、ストーリーはあってないようなものだね。
うさカレー
うさカレー
そうだね。最初と最後くらいしか、事件らしい事件も起きないし・・・

ハーモニー・コリン監督

代表作

KIDS(1995) 脚本のみ
ガンモ(1997)脚本・監督
ジュリアン(1999)脚本・監督
ミスター・ロンリー(2007)脚本・監督
スプリング・ブレイカーズ(2012)脚本・監督
ナツカレー
ナツカレー
ハーモニー・コリン監督は19歳の時に書いた脚本「KIDS」で注目されたね。

19歳の時に書いた「KIDS」は、酒、セックス、ドラッグ、暴力、エイズに関する少年、少女たちの日常を描いた作品です。公開当時はショッキングな内容の作品として話題になりました。

ハーモニーコリンの作品は映画だけにとどまらず、supremeのプロモムービーを撮影したり、GUCCIのキャンペーンフィルムを撮影したりと、その才能は映画界以外でも発揮されています。

また、絵画や写真などの作品も発表しており、ハーモニーコリンを表すには映画監督という枠でくくるよりも、アーティストとして紹介させていただいた方が妥当なのかもしれません。

キャスト

ジュリアン役のユエン・ブレムナーはイギリスの俳優さんです。

代表作といえば、やはり「トレインスポッティング」(1996)で演じたスパッド役ではないでしょうか。個性的なキャラクターのジャンキーの若者を演じ、とても印象に残っています。

今作では、精神分裂症を患うジュリアンの役を演じているのですが、演技とは思えないくらいリアルに感じました。

この作品の主人公、ジュリアンのモデルとなっているのが、ハーモニー・コリン監督の叔父で、実際に精神分裂症を患っておられます。

ユエン・ブレムナーは実際にハーモニー・コリン監督の叔父と面会して、話し方やリズムを自分のものにし、そこで感じた事を役作りに活かしたそうです。

ジュリアンの姉、パール役を演じたのはクロエ・セヴィニーです。

クロエ・セヴィニーは、ハーモニー・コリンが脚本を書いた「KIDS」(1995)でデビューします。その後、ハーモニー・コリン初監督作品「ガンモ」(1997)1997にも出演しています。1999年公開作品「ボーイズ・ドント・クライ」ではアカデミー助演女優賞にノミネートされます。

この頃、クロエ・セヴィニーとハーモニーコリン監督は付き合っており、公私共にパートナーでした。

また、彼女はファッションモデルや、ファッションデザイナーとしても活躍されています。ハーモニー・コリン監督作品の「ガンモ」では衣装デザインも担当しており、自身で衣装も作成されています。

ジュリアンの父親役として、映画監督であるヴェルナー・ヘルツォークが出演しています。

ヴェルナー・ヘルツォークは1960年代に映画監督としてデビューし、ドイツ映画界における映画監督の新世代の1人として認められました。代表作は「アギーレ/神の怒り」(72)や「フィツカランド」(82)。ハーモニー・コリン監督の3作目「ミスター・ロンリー」にも出演しています。

また、ジュリアンの祖母役は、ハーモニー・コリン監督の実の祖母が演じています。

ドグマ95

この作品は「ドグマ95」に則った作品です。

「ドグマ95」とは1995年にデンマークの映画監督であるラース・フォン・トリアーらが宣言した映画運動の事です。ハリウッド大作などによく見られるCG技術を多用する映画製作への疑問からこの運動が始まりました。

ドグマ95には「純潔の誓い」と呼ばれる映画製作における10個のルールがあります。

1 撮影はすべてロケでの撮影をしなければならない。(スタジオのセット撮影は禁止)

2 映像と別の場所で作った音は使ってはいけない。(効果音や音楽を後でのせるのは禁止。もし、作中で音楽を流したいのであれば、撮影時に流しておかないといけない。)

3 カメラはすべて手持ちで撮影しなけばならない。(三脚、台車、クレーンでの撮影禁止)

4 作品はカラーでなければならない。(モノクロ禁止。また、照明も禁止。自然光のみ)

5 光学合成やフィルターの禁止。(フィルムに加工したり、レンズにフィルターをかけて色味を変えるのは禁止)

6 表面的なアクションの禁止。(殺人や武器の使用の禁止。)

7 時間的、地理的な乖離の禁止。(映画の中で今ここで起こっている事しか描いてはいけない。回想シーンや、ここにいない違う場所にいる者を描く事は禁止。)

8 ジャンル映画の禁止。(アクション映画とか、SF映画とかのジャンル分けできるような作品は禁止。)

9 最終的なフォーマットは35mmフィルムである事

10 監督の名前はスタッフロールなどにクレジットしてはいけない。

ドグマ95認定作品は、「純潔の誓い」といわれる厳格な10個のルールを守って映画を撮らなければならないのですが、決してすべて守らなければ認定されない事もないようです。

ナツカレー
ナツカレー
「ジュリアン」はドグマ95に則って製作した初めてのアメリカ作品だね。

ハーモニー・コリン監督は、ドグマ95作品の第1作目である「セレブレーション」(1998)を観て感動し、同作の撮影監督のアンソニー・ドット・マントルと編集のヴァルディス・オスカスドッチアを本作で起用しています。

「ドグマ95」は2000年代に入ると活動が縮小していき、2005年以降は公認作品も発表されなくなりました。

そして、「ドグマ95」の公式サイトは2008年に閉鎖され、この運動に幕を閉じました。



ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数

2ウサコックです。(最高4ウサコック)

脚本がなく、説明的な要素を削除した作品となっている為、ストーリーらしいストーリーがありません。

そのため、登場人物に感情移入する事ができませんでした。また、終わりまで集中力を保ち続ける事も難しかったです。

この作品は、1度だけ観るだけでは消化できないので何度か観る事をオススメします。

カプサ君の激辛(マニア度)指数

カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。

4カプサ君です。映画マニア向け作品です。(最高4カプサ君)

この作品はドグマ95認定作品であるので、10個の「純潔の誓い」に則って撮影していますので、実験的映画という色合いが強く出ている作品です。

説明的な要素を削除したため、わかりにくいストーリーと、手持ちのデジタルカメラで撮影された粗い画像で不安定な映像の数々。登場人物もクセの強い人物ばかりでまったく共感はできません。

作品に入り込むのが難しい作品となっていますので、観る人を選ぶ作品であると言えるでしょう。

ドグマ95画像粗い実験映画リアルさがある登場人物のクセが強いベーコン再登場わかりにくい魅力的なシーン多々ありプッチーニジャンニスキッキ

感想と考察(ネタバレあり)

 

ナツカレー
ナツカレー
1つお断りしておきますが、これからお話する感想はあくまで僕が感じた感想です。製作者の意図や文化人の批評とは違うことがあります。しかし、そこは皆さまの温かい善意によって読んでいただけたらと思っております。

その①

最初のシーンはどういう意味?

池のそばでカメを捕まえた少年とそれを羨ましがるジュリアンがいます。

ジュリアンと少年はカメの事で口論になり、ジュリアンは少年を押し倒します。少年は死んでしまい、ジュリアンは少年に泥をかけて少年を隠します。

といったようなシーンでこの作品は始まります。

しかし、この作品は「ドグマ95」認定作品です。という事は「純潔の誓い」に則って作品を撮らなければなりません。

そこで「純潔の誓い」の第6条を見て欲しいのですが、そこにはこう書かかれています。

6 表面的なアクションの禁止。殺人や武器の使用の禁止。)

そうなんです。ドグマ95においては殺人を描くことは禁止されているのです。

では、あのシーンは少年をはずみで殺してしまったという意味ではないという事でしょうか?

また、「純潔の誓い」の7条ではこう書かれています。

7 時間的、地理的な乖離の禁止。(映画の中で今ここで起こっている事しか描いてはいけない。回想シーンや、ここにいない違う場所にいる者を描く事は禁止。

という事は、回想シーンでも、想像や夢など現実に起こってないシーンでもなさそうです。

しかも、この後は一切この件については触れていません。

謎が深まります。。。

しかし、ドグマ95を宣言したラース・フォン・トリアー監督は「ルールは打ち破るためにある」と語っているので、10か条すべて厳格に守らなくてもいいようです。

なので、①まだ発見されていない事件の事を描いている。という説

②最後のシーンでの、死んだ赤ちゃんを抱いてベットに潜り込んだジュリアンの見た妄想で、押し倒して死んだ少年は、転んで流産した姉の子を表している説

と、2つの仮説を立ててみました。

現実なのか、妄想なのか、観る者の受け取り方で作品の印象も変わってきます。

その②

シュールな表現の数々

ハーモニー・コリン監督の作品の魅力の1つに、シュールで映画的な表現のセンスが抜群にあるというところだと私は思っています。

前作「ガンモ」では、ベーコンが好きすぎて、浴室の壁にテープでベーコンを貼りつけていましたが、今作でもベーコンが登場しました。今回は料理をするシーンだったので、まともだったのですが、またベーコンを登場させるところは、ファンとしてはうれしい演出です。

また、外でゴミ箱相手にレスリングの練習をするジュリアンの兄や、ガスマスクを被りタバコを吸っている父、盲目の方のパーティーで手品をする手品師など、今作も数々の愛すべきシュールなキャラクターが出てきました。

特にヴェルナー・ヘルツォーク演じるジュリアンの父は強烈で、死んだ母親のドレスを息子に着させようとしたり、自分の子供らを汚い言葉で罵ったりと、かなりパンチの効いたキャラクターです。

ヴェルナー・ヘルツォークはさすが鬼才の映画監督と言われるだけあって、即興で自ら作り出したセリフや振る舞いはぶっ飛んだものになっています。

最後に

初見では、やはりストーリーを重視して観たのですが、作品に入り込めずとても疲れてしまいました。

しかし、もう一度観ると、様々な実験的な映像や、登場人物たちの心情など、落ち着いて鑑賞できました。

こういった作品は、何度か観ていくうちに様々な発見があります。

この作品も1度ではなく、何度か観る事をオススメします。

ナツカレー
ナツカレー
ただ、もう1度観たいと思うかどうかだよね
うさカレー
うさカレー
確かにね。こういった映画は魅力に気づく前に再鑑賞するのを断念してしまう作品もあるもんね。
ナツカレー
ナツカレー
やっぱりマニア向けの作品だね