1960年代ヨーロッパ

映画「幸福」感想と考察(後半ネタバレあり)アニエス・ヴァルダ監督

「幸福」はどんな映画?

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今回、ご紹介するのは「幸福」です。

この作品は1964年にフランスで製作されたアニエスヴァルダ監督作品です。

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「幸福」と書いて「しあわせ」と呼ぶんだよ

 


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目次

作品情報

監督アニエス・ヴァルダ
公開年1964年
製作国フランス
キャストジャン=クロード・ドルオー/フランソワ役
キャストクレール・ドルオー/テレーズ役

 

あらすじ

内装屋の職人であるフランソワは、妻のテレーズと2人の子供たちと幸せな日々を過ごしていました。

ある日、フランソワは出張先の郵便局で受付をしていたエミリーと出会い、お互い惹かれあった2人は付き合うようになります。

こうした関係が1ヶ月続いた後、フランソワは家族でピクニックに出かけた際、「他に愛している女性がいる」と妻のテレーズに打ち明けるのですが・・・

アニエス・ヴァルダ監督

代表作

ラ・ポワント・クールト(1954)監督
5時から7時までのクレオ(1961)監督
幸福(1964)監督 ベルリン映画祭銀熊賞受賞
ダゲール街の人々(1975)監督
アニエスv.によるジェーンb.(1987)監督
百一夜(1994)監督 映画誕生百年記念作品
アニエスによるヴァルダ(2019)監督

元々写真家として活動していたアニエス・ヴァルダ監督は、1954年にデビュー作「ラ・ポワント・クールト」を自主制作で発表します。

この作品は全編屋外で撮影されました。当時の映画は、スタジオでセットを組んで撮影するのが常識だったので、この作品はとても斬新な作品だったといえるでしょう。

この作品が発表された後、1950年代後半にフランス映画における映画運動、「ヌーベルヴァーグ(新しい波)」が始まります。

「ヌーベルヴァーグ」とは、撮影所などでの下積み経験なしでデビューした若手監督による、これまでの映画制作の手法に囚われない新しい映画を作ろうとした映画運動です。

「ヌーベルヴァーグ」の作品では、ロケ撮影や、同時録音、即興演出など、これまでの映画とは違った方法で映画を制作しました。

この「ラ・ポワント・クールト」はヌーベルヴァーグに先立つ先駆的作品となり、アニエス・ヴァルダ監督は「ヌーベルヴァーグの祖母」と呼ばれるようになります。

1962年には映画監督であるジャック・ドゥミと結婚しました。

夫であるジャック・ドゥミ監督の代表作は、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」です。これらの作品は、これまでのミュージカル映画に新風を吹込みました。

また、アニエス・ヴァルダ監督は、フィクションの作品だけでなく、ドキュメンタリー作品も数多く発表しています。

「リアル」を表現する写真家としての視点が、ドキュメンタリー作品に反映されているように感じます。

晩年には、私たちに「ビジュアル・アーティスト」としての一面を見せてくれました。

「ビジュアル・アーティスト」としての活動として、2003年にジャガイモをテーマにした「パタテュートピア」や、2006年にカルティエ現代美術財団の依頼で、夫、ジャック・ドゥミと過ごした思い出の島、「ノワールムーティエ」をテーマとした展覧会「島と彼女」を手掛けます。

2015年には、カンヌ映画祭名誉パルムドールを、2017年には米アカデミー賞名誉賞を受賞しました。

そして、2019年3月、90歳で人生の幕を閉じられます。

キャスト

主演のフランソワを演じるのは、ジャン=クロード・ドルオーです。

そして、妻のテレーズ役はクレール・ドルオーが演じています。

2人とも「ドルオー」という名前でピンときたかもしれませんが、2人は作中だけでなく、現実でも夫婦です。

また、2人の子供役のジズーとピエロを演じているのは、オリビエ・ドルオーとサンドリーヌ・ドルオーで、彼らも2人の本当の子供たちです。

家族役として出演している4人は、実際の「本当の家族」なのです。

そして描かれるのが不倫の話という何ともシュールな設定です。




ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数

3ウサコックです。(最高4ウサコック)

まるで絵画のような美しいシーンから始まり、赤や青などの鮮やかな色をふんだんに取り入れた映像の数々。そして、そこに流れるモーツァルトの楽曲。そして様々な演出がとても魅力的な作品です。

ストーリーは「幸せの意味」を考えさせられる内容で、全体に見どころ満載の作品となっています。

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女性の方はフランソワに嫌悪感を抱く人が多いかもしれないね

カプサ君の激辛(マニア度)指数

カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。

2カプサ君です。(最高4カプサ君)

ストーリーも分かりやすい作品ですので、それほど重厚感もなく見やすい作品となっています。

絵画のようモーツァルト不倫家族ひまわり本物の家族鮮やかなフェイドアウト男性と女性の本質の違いちょっと怖い

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感想と考察(ネタバレあり)

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1つお断りしておきますが、これからお話する感想はあくまで僕が感じた感想です。製作者の意図や文化人の批評とは違うことがあります。しかし、そこは皆さまの温かい善意によって読んでいただけたらと思っております。

その①

冒頭のひまわり畑のシーン

作品の冒頭にあるシーンです。

手前にひまわり畑があり、奥には黄色味を帯びた草原が広がっています。

その草原を4人家族が手をつなぎながら、こちらに歩いてきます。

カメラは、手前にあるひまわり畑の中の数本のひまわりにピントが合わしてあります。

画面の奥からこちらに歩いてくる4人家族はピントがあっておらず、ぼやけています。

このシーンではモーツァルトの曲が流れており、まるで絵画を観ているような美しいシーンです。

この映画のタイトルでもある「幸福」を想像させられます。

その美しいシーンの合間に、ひまわりの花1輪にクローズアップしたカットが何度も挿入されます。

時間としては大体1秒くらいで、ほんの一瞬の場合もあります。

そのカットだけみると、きれいなひまわりの花がクローズアップされた何の変哲のないカットなのですが、草原を歩いてくる幸せそうな家族のシーンに何度も入り込んでくる事によって、段々「異物感」を感じてきて、その「異物感」が「怖い」とか「不気味」という感情に変化していきました。

この最初のシーンで、「この作品は単なるハートウォーミングな作品ではない」と観ている者に思わせるアニエス・ヴァルダ監督の凄さを感じました。

その②

テリーズが新婦の着付けにいくシーン

妻のテレーズはウェディングドレスを作る仕事をしており、その依頼者の結婚式にお呼ばれします。夫のフランソワは「その日は仕事があるから」という理由で出席を断った為、テリーズだけが結婚式に参加することになります。しかし、この日フランソワはエミリーの部屋に行く約束をしていたのでした。

その日の朝、ドレスの着付けのため、テレーズは新婦さんの家に訪れます。着付けを終え、新郎新婦とその親類一同は式場へ向かいます。

家を出たところで、新郎新婦と親類一同で記念写真を撮ります。

みんな笑顔で幸せそうな写真です。

場所を変えて、もう1枚写真を撮ります。

今度の写真では、女性陣は太陽の光に照らされてきれいに映っているのですが、男性陣は木の陰になり暗くて姿はあまり見えません。

それは、まるでフランソワの行動が夫婦関係に影を差す前兆を表しているように感じられます。

新婦が式場に向かうという何気ないシーンなのですが、物語が新たな方面に動き出すのを示唆した意味のあるシーンです。

その③

カフェでのシーン

カフェでエミールとフランソワがお茶して話ているシーンでは、エミールの着けているハートのネックレスや「誘惑」や「秘め事」といった本の張り紙をクローズアップしたり、キスを交わす男女などを映す事で、お互いが惹かれあっていて今後の関係に期待している事が伝わってきます。

「愛してる」などセリフで伝えたり、手を握ったりするなどの直接的な演出ではなく、間接的に二人の心情を描いているところが、個人的に好きなところです。

その④

フランソワが初めてエミールの部屋に訪れたシーン

フランソワが妻に嘘をつき、はじめてエミールの部屋に訪れたシーンです。

部屋を訪れたフランソワは、ドアを開けたエミールと見つめ合い、無言のままフランソワを部屋に招き入れます。

この時、約0.5秒おきにフランソワとエミールの顔のショットが交互に映し出されます。

この早いカットの切り替えによって、2人の緊張感が伝わってきます。

その後、部屋に入った2人はしばらく言葉も交わさず、部屋の中を歩きます。

エミリーが歩く後ろをフランソワがついていくシーンの合間に、部屋のインテリアであったり、まだ片づけられていない荷物のカットが挿入されます。

こういった生活感のある部屋のカットが入ることで、リアリティーが感じられ、どちらが先に口を開くのか、何を話すのか、観ていてドキドキするシーンでもありました。

その⑤

男女における「幸せ」の違い

フランソワは作中、何度も「幸せだ」と言います。

妻のテレーズに対しても、愛人のエミリーに対しても。

フランソワのいう「幸せ」は、自分には愛する女性が2人もいる事が「幸せ」と考えています。

愛人ができようとも、妻への愛情は減らないし、2人とも平等に愛しているから問題はないと考えています。

しかし、女性たちは、フランソワに愛されている事が「幸せ」と考えています。

子供たちにも恵まれ、夫にも愛され「幸せ」なテレーズ。

愛人でありながらも、妻と同じように愛してると言われ、「幸せ」なエミリー。

愛される事で「幸せ」を感じる女性と、女性を愛する事に「幸せ」を感じる男性との価値観の違いが感じられます。

同じ男性の視点から見てもフランソワには共感できませんが、まったく理解できないという事はありません。

男性なら、あわよくばという気持ちはいつもどこかに持っているものだと思います。

当たり前の事ですが、「幸せ」の価値観は人それぞれ違うという事を思い出させてくれました。

その⑥

テリーズの死、そしてその後

フランソワがエミリーの事を打ち明けたのち、妻のテレーズは池で溺れて命を落とします。

フランソワがテレーズの死体を抱きあげるカットを何度も繰り返し見せるシーンは、非常に印象的で、ショッキングなシーンでした。

テレーズの死はフランソワの秘密を告白した直後なので、自殺なのか?事故なのか?と考えさせられますが、2人の子供がいる事からして自殺ではなく事故だろうと私は解釈しています。

テレーズの死後、フランソワは愛人だったエミリーと再婚します。

そして、フランソワ親子とエミリーの共同生活が始まるのですが、2人の子供たちもエミリーになついており、本当の親子のようです。

作品の前半で、テレーズが子供の世話をしたり、家事をしたりする手だけを映してるシーンがありました。

再婚後、今度は日々の生活をしているエミリーの手だけが映し出されます。

顔は映さず、手だけの動作を見ていると、テレーズとエミリーの区別はまったくつきません。

エミリーはフランソワの妻として、また2人の子供の母親としての役割を十二分に果たしています。それはまるで、元からフランソワの妻だったように、そして2人の子供の本当の母親のように。

もうそこには、かつてテレーズがいた事は微塵も感じません。

人は死んでしまうと、その存在した事実もだんだん忘れさられてしまう怖さを観ていて感じました。

物語の最後は、ペアルックを着たフランソワとエミリーと子供たちが手をつないで歩くシーンで終わります。ここだけ切り取って見ると、とても幸せな家族にみえます。

最初のシーンも家族で仲良く手をつないで歩くシーンから始まりますが、物語の最初と最後では、母親が違う人物になっているというブラックユーモアが効いた終わり方です。

最後に

かつては写真家として活躍していたアニエス・ヴァルダ監督とあって、構図や、色使いが、とても面白く、今観てもとてもオシャレです。

特にフランソワとエミリーのベッドシーンは、まるで写真集を見ているかのようで、個人的にお気に入りのシーンです。

このベッドシーンもそうなのですが、不倫を題材に描いていても、いやらしさがまったくなく描かれています。

それは、この作品が男女の色恋沙汰を描いているのではなく、題名の通り「幸福」について描いているからです。

もし、別の監督がこの作品を撮ったとしたら、もっと官能的な作品になっていてもおかしくありません。

官能的ではなく、哲学的に描いたアニエス・ヴァルダ監督の手腕が素晴らしいと感じた作品でした。