「ラ・ポワント・クルート」はどんな映画?
今回、ご紹介するのは、「ラ・ポワント・クルート」です。
この作品は1954年製作のフランスの作品で、監督はアニエス・ヴァルダです。
アニエス・ヴァルダ監督の長編映画デビュー作品となります。
この作品はフランスでの映画運動「ヌーヴェル・ヴァーグ」が起こる前の作品で、「ヌーヴェル・ヴァーグ」の先駆的作品と言われています。
作品のタイトルである「ラ・ポワント・クルート」とは、直訳すると「短い岬」という意味で、実際にあるフランス南部の漁村の名前です。その「ラ・ポワント・クルート村」が舞台になっている作品です。
目次
作品情報
監督 | アニエス・ヴァルダ |
---|---|
製作年 | 1954年 |
製作国 | フランス |
上映時間 | 80分 |
キャスト | フィリップ・ノワレ |
キャスト | シルヴィア・モンフォール |
あらすじ
南仏の漁村「ラ・ポワント・クルート」
生まれ故郷であるこの村に12年ぶりに戻ってきた夫
そして、夫の到着から5日後に到着する妻
夫婦関係に問題を抱えた2人は、村を歩きながら、「愛」について語りだす・・・
アニエス・ヴァルダ監督
代表作
ラ・ポワント・クールト | (1954)監督 |
---|---|
5時から7時までのクレオ | (1961)監督 |
幸福 | (1964)監督 ベルリン映画祭銀熊賞受賞 |
ダゲール街の人々 | (1975)監督 |
アニエスv.によるジェーンb. | (1987)監督 |
百一夜 | (1994)監督 映画誕生百年記念作品 |
アニエスによるヴァルダ | (2019)監督 |
元々写真家として活動していたアニエス・ヴァルダ監督は、1954年にデビュー作「ラ・ポワント・クールト」を自主制作で発表します。
この作品は全編屋外で撮影されました。当時の映画は、スタジオでセットを組んで撮影するのが常識だったので、この作品はとても斬新な作品だったといえるでしょう。
この作品が発表された後、1950年代後半にフランス映画における映画運動、「ヌーベルヴァーグ(新しい波)」が始まります。
「ヌーベルヴァーグ」とは、撮影所などでの下積み経験なしでデビューした若手監督による、これまでの映画制作の手法に囚われない新しい映画を作ろうとした映画運動です。
「ヌーベルヴァーグ」の作品では、ロケ撮影や、同時録音、即興演出など、これまでの映画とは違った方法で映画を制作しました。
この「ラ・ポワント・クールト」はヌーベルヴァーグに先立つ先駆的作品となり、アニエス・ヴァルダ監督は「ヌーベルヴァーグの祖母」と呼ばれるようになります。
1962年には映画監督であるジャック・ドゥミと結婚しました。
夫であるジャック・ドゥミ監督の代表作は、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」です。これらの作品は、これまでのミュージカル映画に新風を吹込みました。
また、アニエス・ヴァルダ監督は、フィクションの作品だけでなく、ドキュメンタリー作品も数多く発表しています。
「リアル」を表現する写真家としての視点が、ドキュメンタリー作品に反映されているように感じます。
晩年には、私たちに「ビジュアル・アーティスト」としての一面を見せてくれました。
「ビジュアル・アーティスト」としての活動として、2003年にジャガイモをテーマにした「パタテュートピア」や、2006年にカルティエ現代美術財団の依頼で、夫、ジャック・ドゥミと過ごした思い出の島、「ノワールムーティエ」をテーマとした展覧会「島と彼女」を手掛けます。
2015年には、カンヌ映画祭名誉パルムドールを、2017年には米アカデミー賞名誉賞を受賞しました。
そして、2019年3月、90歳で人生の幕を閉じられます。
キャスト
夫役を演じるのは、フィリップ・ノワレです。
彼は、2006年にその生涯を閉じるまで、100本以上の作品に出演した、フランス映画界を代表する俳優です。
当時、舞台俳優として活躍しており、この作品が映画デビューとなります。
代表作は、有名映画監督が、恩人の訃報を聞き、自身の少年時代、青年時代を回想する物語「ニュー・シネマ・パラダイス」や
世界的詩人と、郵便配達員との交流を描いた「イル・ポスティーノ」があります。
妻役を演じたのが、シルヴィア・モンフォールです。
彼女も、フィリップ・ノワレと同じ劇団で女優として活躍していました。
彼女が、ルネサンス期のイタリアで描かれた肖像画っぽい風貌だったことが選ばれた理由の1つだそうです。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
3ウサコック(最高4ウサコック)です。
この作品は、漁村の話と、夫婦の話の2パートが交互に描かれています。そして、この2つがほぼ交わることがないまま、エンディングを迎えます。
ストーリーだけ追うという鑑賞をすると、退屈に感じるかもしれません。
ただ、ドキュメンタリーのような漁村パートと、構図にこだわった夫婦のパートとの、撮り方の違いを比べてみると、違った楽しみ方ができる作品です。
映画を楽しむというよりは、写真展で写真を鑑賞するような感覚で、この作品を観るほうが、よりこの作品の良さがわかります。
個人的に、ストーリーにもう少し盛り上がりがあった方が好みなので、評価を下げました。
ただ、構図の素晴らしさや、漁村の人々の様子の描き方など、アニエス・ヴァルダ監督らしさが存分に出ている作品です。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほど、マニア向けの作品となっております。
4カプサ君です。映画マニア向き作品です。(最高4カプサ君)
この作品は、1954年製作のモノクロ作品で、万人が観て楽しめる作品ではありません。
アニエス・ヴァルダ監督ファンや、映画マニアの方にオススメの作品です。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
写真家・アニエス・ヴァルダ
アニエス・ヴァルダ監督は、もともと写真家として活躍していました。
この作品は、「写真家・アニエスヴァルダ」が色濃く出ている作品だと思います。
この「ラ・ポワント・クルート」村は、南仏の町「セート」にあります。「セート」はアニエス・ヴァルダ監督が、少女時代に過ごしていた街で、監督のゆかりの地です。
この作品で登場する漁師たちや、その家族たちは、本当の住人たちです。
そのため、ドキュメンタリー作品のような、生活感を感じられる映像になっています。
作中では、「ラ・ポワント・クルート」村は、貧困にあえぐ村として描かれていますが、「暗い描写が気に入らない」という住民もいたそうです。
しかし、この作品によって「ラ・ポワント・クルート」は有名になります。住民たちはその感謝の気持ちを表すため、村にアニエスヴァルダの名を冠した道を作り、その道の壁には、彼女の顔や、作品をモチーフとした絵を描きました。
作品の中では、漁村でのお話と、もう1つの物語が描かれています。
故郷に戻ってきた夫と、その妻のストーリーです。
この夫婦のパートは、2人が村を歩きながら「愛」について話し合う会話劇です。
こちらは、漁村でのパートとは対照的で、生活感の感じられない、構図にこだわった洗練された映像になっています。
2人が見つめ合って言葉を交わすシーンはほとんどなく、例えば、我々観客に向けて心情を独白しているようなシーンがあったり、この作品のDVDのジャケットで使われている、絵画のような構図のショットがあったりと、様々なアイディアを駆使し、作りこまれた印象を受けます。
シルヴィア・モンフォールが、「ルネサンス期のイタリアで描かれた肖像画っぽい風貌だった」という理由で選ばれたのも、「絵画のような構図に映える女優」を描きたかったということだったのでしょう。
↑まるで絵画のような、美しい構図です。
アニエスヴァルダ監督は、主演である、フィリップ・ノワレとシルヴィア・モンフォールが所属する国立民衆劇場の専属写真家として活躍していたので、演劇のような演出や、写真の作品ような構図などを、映画に取り入れています。
そのあたりを注目してみると、また違った一面が見えてきて面白いです。
その②
ヌーヴェル・ヴァーグ前夜
ヌーヴェル・ヴァーグとは、1950年代後半にフランスで起こった映画運動です。
「ヌーベルヴァーグ」作品の特徴は、ロケ撮影や、同時録音、即興演出など、これまでの映画とは違った方法で映画を制作することでした。
「ヌーベルヴァーグ」の名を一躍有名にした、ジャン・リュック・ゴダール監督の「勝手にしやがれ」が公開されたのが1959年で、この作品の公開から、およそ5年後のことです。
当時、「ヌーベルヴァーグ」を代表する監督たちは、いわゆる「映画オタク」で「カイエ・デュ・シネマ」誌などの映画誌で、映画評論家として活躍していました。
ジャン・リュック・ゴダール監督もこの「ラ・ポワント・クルート」には高い評価をしていました。
また、この「ラ・ポワント・クルート」の編集を担当したのは、アラン・レネです。
彼も、後にヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督として名をはせます。
当時、ベテランの記録映画作家であったアラン・レネは、この作品の革新性を見抜き、その良さを殺さないよう、細心の注意を払って、編集したそうです。
アニエス・ヴァルダ監督も、「彼の協力によって固有のリズムが生まれた」と語っています。
アラン・レネ監督の代表作である、戦後の広島に訪れたフランス人女優と、日本人男性との関係を描いた「二十四時間の情事」(1959)は、「ラ・ポワント・クルート」の影響を受けた作品です。
二十四時間の情事 ヒロシマ・モナムール アラン・レネ HDマスター [DVD]
ヌーヴェル・ヴァーグを代表する監督たちは「映画オタク」であったのに対し、アニエス・ヴァルダ監督は、映画をあまり見た事がなく、映画の知識もほとんどなかったそうです。
そうしたまっさらな状態で映画を作成したので、「映画製作における常識」を無視し、ロケ中心の撮影などの新しい手法を用いて、今までにない作品が誕生したのです。
最後に
この作品は、映画史においても、重要な意味を持つ作品といえるのではないでしょうか。
現地の住人を起用したドキュメンタリー作品のような「リアル」なパートと、劇団員を起用した演劇のようなパート、「リアル」と「フィクション」とが融合された作品であり、アニエス・ヴァルダ監督作品の原点と呼ぶにふさわしい作品だと思います。
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