映画「紹介、またはシャルロットとステーキ」はどんな映画?
今回ご紹介するのは、「紹介、またはシャルロットとステーキ」です。
この作品は1961年製作のフランス映画です。
モンソーのパン屋の女の子/シュザンヌの生き方/紹介またはシャルロットとステーキ/パリのナジャ (エリック・ロメール コレクション) [DVD]
目次
作品情報
監督 | エリック・ロメール監督 |
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公開年 | 1961年 |
製作国 | フランス |
上映時間 | 10分 |
キャスト | ジャン=リュック・ゴダール(ヴァルテル) |
キャスト | ステファーヌ・オードラン(シャルロットの声) |
キャスト | アンナ・カリーナ(クララの声) |
あらすじ
ある雪の日、ヴァルテルは駅で待ち合わせをしていたシャルロットを、駅に行くため雪道を歩いて来たクララに紹介します。クララに紹介することでシャルロットを嫉妬させようというヴァルテルの魂胆です。
駅でクララと別れたあと、ヴァルテルはシャルロットの家に押しかけるのですが…
エリック・ロメール監督
エリック・ロメール監督は1950年代に始まった映画運動「ヌーヴェル・ヴァーグ」を代表する映画監督です。
エリック・ロメール監督は、何本かの作品を連作として1つのシリーズとしているのが特徴です。
1960年代から1970年代にかけて「六つの教訓話」シリーズと題して6つの作品を発表しました。
この「紹介、またはシャルロットとステーキ」は「六つの教訓話」シリーズの萌芽と呼ばれている作品です。つまり、「六つの教訓話」のプロローグ的な作品となります。
また、この「紹介、またはシャルロットとステーキ」は短編として4作品がシリーズ化されています。
2作目「男の子の名前はみんなパトリックっていうの」と4作目「シャルロットとジュール」をジャン=リュック・ゴダールが、3作目「ヴェロニクと怠慢な生徒」をエリック・ロメールが監督しています。
「六つの教訓話」シリーズ
モンソーのパン屋の女の子 | (1962)主演 バルべ・シュローデル |
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シュザンヌの生き方 | (1963) 主演 ジャン・ルイ=トランティニャン |
コレクションする女 | (1967) ベルリン国際映画祭 銀熊賞 審査員グランプリ |
モード家の一夜 | (1969) 主演 ジャン・ルイ=トランティニャン |
クレールの膝 | (1970) 主演 ジャン=クロード・ブリアリ |
愛の昼下がり | (1972) 主演 ベルナール・ヴェルレー |
「六つの教訓話」は2人の女性の間で、感情が揺れ動く男性のお話が題材となっています。
キャスト
2人の女性の間で揺れ動く男性ヴァルテルを演じているのは、ジャン=リュック・ゴダールです。
ゴダールはヌーヴェルヴァーグを代表する監督として有名です。俳優としては、他監督の初期のヌーヴェルヴァーグ作品に、ちょこちょこ出演しています。
この作品はゴダールが育った地スイスで撮影され、スイスまでの旅費をロメールが、そしてフィルム代をゴダールが捻出し製作されました。
シャルロットを演じるのは、アンヌ・クードレです。そして声はステファーヌ・オードランが演じています。
この作品は1951年に撮影され、サイレント作品として仲間内で上映されていました。その後、「ヌーヴェル・ヴァーグ」という映画運動が注目されると、この作品も日の目を見る事となります。
この作品が1961年に公開される時には、サイレント作品ではなくトーキー作品として上映されます。その際、声の出演は当時演じていた女優さんとは違う女優さんが担当することになりました。撮影から10年経っているので、それも仕方ないかなと思います。
そしてシャルロットの声を演じたのはステファーヌ・オードランです。彼女は、1959年製作のエリック・ロメール監督長編デビュー作「獅子座」にも出演しています。
彼女はクロード・シャブロル監督作品「いとこ同士」に出演しており、後にクロード・シャブロル監督と結婚します。
クララを演じるのは、アンドレー・ベルトランで、声の出演はアンナ・カリーナです。
アンナ・カリーナは、ジャン=リュック・ゴダール監督作品に多く出演しており、1961年、ゴダール監督と結婚します。ゴダールが出演していたからこそ、アンナ・カリーナの声の出演が実現したのかもしれません。ちなみに1965年に2人は離婚します。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
3ウサコックです。(最高4ウサコック)
10分の短編作品なのですが、この後の展開も見たいなと思う内容でした。
男女間の駆け引きを描いている会話劇なので、1951年撮影の作品でも、さほど古さを感じさせない作品だと感じました。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほど、マニア向けの作品となっております。(最高4カプサ君)
4カプサ君です。映画マニア向けの作品です。
エリック・ロメール監督作品好きの方は見逃せない作品ではないでしょうか。ただ、1951年に撮影された10分のモノクロ作品なので、観る人を選ぶような作品だと思います。
とはいえ、男女間の会話劇なので、今観ても楽しめる作品だと感じました。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
あまのじゃくなシャルロット
シャルロットはあまのじゃくな女性です。
劇中、ヴァルテルの言うことに対し、ことごとく反対の行動を取っています。
コーヒーを作ると言うシャルロットに「一杯欲しい」とヴァルテルが頼むと、コーヒーを作るのを止め、ステーキを食べると言いお肉を焼き始めます。
ステーキを焼くシャルロットに、「コートが汚れるから僕が焼くよ」という提案に対しては、「大丈夫」と言い、コートを着たままステーキを焼きます。
焼き終えたステーキを「食べる?」とシャルロットはヴァルテルに聞きます。ヴァルテルは「いらない」と答えますが、ステーキを一切れお皿に移し、ヴァルテルに渡します。
このように、シャルロットはヴァルテルの言うことに対し、ことごとく逆の行動を取ります。
ヴァルテルの要望に応えたのは、シャルロットの部屋に入ることと、キスをしたことです。この2つの行動こそが、シャルロットの本音なのではないかと推測しました。特に、シャルロットがキスをした真意について考えたいと思います。
キスのあと、「僕を愛して欲しい」というヴァルテルに、シャルロットは「無理よ、愛せない」と言います。これがあまのじゃくな答えだと考えると、返事は「YES」ということになります。
しかし、キスをするという行為自体が、あまのじゃくな行動だったとも受け取れます。そうだとしたら、つまりキスしたことが「ヴァルテルが好き」ではないという気持ちの表れとも見れます。しかし、1度のみならず2度キスしたことに、シャルロットの「ヴァルテルが好き」という本音が表れているように思えました。
シャルロットはあまのじゃくで素直な性格でありません。ですので、ヴァルテルに「好きだ」と言われても素直に受け入れていません。キスしたあと、「愛せないわ、お互いにね」というシャルロットのセリフがあります。これは、もし、ヴァルテルがクララを選んだとしても自分が傷つかないよう、「期待しすぎたらダメよ」と自分自身にそう言い聞かせているように私は感じました。
その②
マットの上に立つヴァルテルと、部屋を動き回るシャルロット
シャルロットの部屋に転がり込んだヴァルテルですが、キッチンに置かれた玄関マットから動かないという制限をかけられました。
まったく動かないヴァルテルと、部屋を慌ただしく動き回るシャルロットという「静」と「動」の対比が、2人の心の動きとリンクしているように感じました。
「シャルロットを口説き落とす」という目標があるヴァルテルの心は揺れることなく、一心にシャルロットを口説いています。逆にシャルロットはヴァルテルに口説かれ、心が揺れ動いています。
そして、部屋の中にいる2人の距離が段々縮まっていき、最終的にはキスをします。これもシャルロットの気持ちが段々ヴァルテルに引き寄せられていることを表わしているような印象をうけました。
その③
シュールな演出
この作品の魅力の1つに、シュールな演出にあります。
まず、ヴァルテル、シャルロット、クララの3人が雪道を歩くシーンでは、女性たちはヒールを履いています。雪道をヒールで歩く女性という演出がとても「映画的」だと感じました。
そして、コートの内側にスカーフをまいているクララに対し、コートの上からスカーフを巻いているシャルロット。後に、シャルロットがコートのままステーキを食べる時、スカーフがまるで食事用のハンカチのように見えます。その演出のために、シャルロットはコートの上からスカーフを巻いていたのではないかと推測します。
シャルロットがコートのままステーキを食べる行為もシュールな演出です。こういった演出の積み重ねが、たった10分の「映像」を「映画」へと昇華させているように感じました。
最後に
最後、2人が部屋を出るときに「FIN」(終わり)という文字が出るのですが、そこで話は終わらず、駅まで2人で歩きシャルロットが電車に乗って別れるところで映画は終わります。この終わり方は個人的に好きな終わり方でした。「FIN」で1つの章が終わり、新たに次の章が始まる、そのように感じさせる、そんな終わり方です。
たった10分の作品ですがいろいろと想像させられる作品でした。ヴァルテルとシャルロット、クララの3人のこのあとの展開も見てみたいと思わせる作品でした。