「ガンモ」はどんな映画?
1997年公開、ハーモニー・コリン監督作品「ガンモ」を紹介させていただきます。
この作品は「KIDS」の脚本で注目を浴びたハーモニー・コリン監督のデビュー作品です。
この作品を監督した時は弱冠21歳という若さでした。
目次
作品情報
監督 | ハーモニー・コリン |
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公開年 | 1997年 |
製作国 | アメリカ |
キャスト | ジェイコブ・レイノルズ(ソロモン) |
キャスト | クロエ・セヴィニー(ドット) |
上映時間 | 89分 |
あらすじ
数年前に台風に襲われたオハイオ州のジーニアという町が舞台。ソロモンとタムラーの2人の少年の視点を中心に町の住人たちの生活の様子を描いている。
ハーモニー・コリン監督
代表作
KIDS | (1995) 脚本のみ |
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ガンモ | (1997)脚本・監督 |
ジュリアン | (1999)脚本・監督 |
ミスター・ロンリー | (2007)脚本・監督 |
スプリング・ブレイカーズ | (2012)脚本・監督 |
19歳の時に書いた「KIDS」は、酒、セックス、ドラッグ、暴力、エイズに関する少年、少女たちの日常を描いた作品です。公開当時はショッキングな内容の作品として話題になりました。
その「KIDS]から2年後、初監督作として「ガンモ」を発表します。しかし公開直後、「ニョーヨークタイムズ紙」は映画批評コーナーの中で、この「ガンモ」を「今年最悪の映画」と酷評します。その為、「その後、この作品の上映を希望する劇場がほとんどなくなった」とハーモニー・コリンは後のインタビューで話しています。
また、ハーモニーコリンの作品は映画だけにとどまらず、supremeのプロモムービーを撮影したり、GUCCIのキャンペーンフィルムを撮影したりと、その才能は映画界以外でも発揮されています。また、絵画や写真などの作品も発表しており、ハーモニーコリンを表すには映画監督という枠でくくるよりも、アーティストとして紹介させていただいた方が妥当なのかもしれません。
出演
この作品に出演している俳優さんの中でもっとも有名な方は、クロエ・セヴィニーです。彼女はハーモニー・コリン脚本作品「KIDS」で女優デビューします。この頃、監督のハーモニーコリンとは恋人関係でした。その後も、「ガンモ」や「ジュリアン」とハーモニー・コリン監督作品に出演します。
1999年公開作品「ボーイズ・ドント・クライ」ではアカデミー助演女優賞にノミネートされます。
その後、2003年公開の「ドッグヴィル」や同じく2003年公開の「ブラウン.バニー」などにも出演します。特にこの「ドッグヴィル」「ブラウンバニー」の2本の作品の撮影では相当精神が参ったのではないでしょうか。両作品共に、中々濃い内容の作品となっています。
また、彼女はファッションモデルや、ファッションデザイナーとしても活躍されています。「ガンモ」では衣装デザインも担当しており、自身で衣装も作成されています。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
3ウサコックです。(満点4ウサコック)
世の中のネガティブな社会問題を目いっぱい詰め込んだ作品です。様々な実験的な映像は魅力的に感じましたし、いろいろと考えさせられる作品です。ただ目を背けたくなるシーンが多々出てくるため、評価を下げました。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。
3カプサ君です。映画通向けの作品です。(最高4カプサ君)
この作品には過激な描写がたくさん出てきます。映画を楽しく鑑賞しようとこの作品を選ぶと痛い目に合うと思います。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
ウサギのかぶり物をした少年は誰?
この作品の登場人物は偏見や差別の対象となりうる人々ばかりです。先天的な病気で障がいのある方や、同性愛者の方、トランスジェンダーの方、経済的に貧しい方が多く登場します。
作中に出てくるウサギのかぶり物をしている少年は、この作品に登場する人々のような社会的弱者の象徴的存在として描かれています。
ウサギは肉食動物に狙われる動物で、自然界では弱者にあたります。
そういった「弱者」の思いや怒りを具体化したのがウサギの少年だと私は思います。
その②
障がいのある方の出演について
「ニューヨーク・タイムズ」はこの作品を酷評した理由の1つに、障がい者を出演させている事を挙げています。ハーモニー・コリン監督はこの映画のインパクトの為に障がい者を利用していると非難したのです。
当然、ハーモニー・コリン監督は反論しました。私の考えも「ニューヨーク・タイムズ」の評価とは違います。
作中、ソファーでお酒を飲みながら、ゲイの男性が小人症の男性を口説くシーンがあったり、ダウン症の女性が娼婦のような役柄で出演していたりしています。
確かにそれらのシーンはインパクトがあると感じました。しかしそれは、私自身が偏見の目で彼らを見ているのでインパクトがあると感じたのではないでしょうか?
こういった障がいのある方が映画に登場すると、昔のサーカスであったような見世物的な要素で起用しているという「ニューヨーク・タイムズ」の批評のような見かたをされる人が多いと思います。
しかし、この作品に関してはそれはないと考えます。障がいのある方への偏見や差別についての問題提起であると私は解釈しています。
その③
ベーコンに夢中
ハーモニー・コリン監督はこの作品を撮影中、食べるベーコンに夢中だったそうです
夢中と言っても、毎日食べるとかそういうレベルの話ではありません。
ベーコンと相思相愛の関係にあると考えていたそうです。凡人の私には、どんな感覚でそう思っているのかまったくわからないですが・・・
そしてベーコン愛が強すぎて、壁にベーコンをテープで貼りつけ、ベーコンを作品に登場させます。
監督いわく「ただ壁に貼られているベーコンを見たかった」という事です。
その問題のシーンは、後半のソロモンのバスタブのシーンです。このシーンはこの作品の中でとても印象的なシーンの1つです。
泥水のようなお湯の溜まったバスタブの中で、シャンプーしながら見た目のひどいスパゲッティを食べるソロモン。
そのソロモンの後ろの壁にベーコンがテープで貼られています。
壁に貼られたベーコンの意味する事は何でしょうか?
シュールリアリズム的な意味合いで、その場所にあるはずがない物を、あえて配置する事によって、より現実を表現しているという意味なのでしょうか?
それとも、本当にただベーコンを壁に貼りたかっただけなのか?真意はわかりませんが、ただただ、そのセンスに感嘆するばかりです。
最後に
社会の問題をいろいろぶちこんだ作品
猫の虐待シーンはフィクションだとわかっていても、やはり見ていて気持ちのいいものではありません。
ただ、少年たちは快楽として猫を殺しているのではなく、生活のために仕方なく猫を殺しています。
ラスト近くで猫を殺しているタムラーの悲しげな表情がすべてを物語っていると思います。
少年たちのこの行為の根本にあるのは貧困です。
その他に、先程述べた差別、偏見についての問題、動物虐待についての問題、安楽死についての問題、親による性被害の問題、親が子供に売春をさせる問題、少年犯罪の問題、シンナー吸引の問題など、さまざまな社会の闇の問題を作品の中に盛り込んでいます。
しかし、1つ1つの素材を丁寧に料理して描いていくのではなく、社会における問題を作品の中にぶちこめるだけぶちこんで、「どうぞ食べてください」といった男の鍋料理のような作品です。
[…] そして、1997年に、ハーモニー・コリン初監督作の「ガンモ」を発表します。 […]