「ミスター・ロンリー」はどんな映画?
今回ご紹介する作品は「ミスター・ロンリー」です。
この作品はハーモニー・コリン監督作品で、前作「ジュリアン」から8年間の沈黙を破り発表した作品です。
マイケルジャクソンとマリリンモンローのモノマネをしている2人が船に乗っているポスターの写真を見ても、モノマネ芸人の話だろうとしか想像がつきません。
目次
作品情報
監督 | ハーモニー・コリン |
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製作年 | 2008年 |
製作国 | イギリス・フランス |
キャスト | ディエゴ・ルナ(マイケル役) |
キャスト | サマンサ・モートン(マリリン役) |
上映時間 | 111分 |
あらすじ
フランスのパリでマイケル・ジャクソンのモノマネで生計を立てているマイケルは、マリリン・モンローのモノマネをしているマリリンに出会います。
マリリンはスコットランドに住んでおり、そこで、同じくモノマネ芸人である夫と、娘、そしてモノマネ芸人仲間とで暮らしています。
そして彼らはモノマネショーのステージを作っており、マリリンはマイケルに「一緒に来ないか?」と誘います。
そしてマイケルはパリを離れ、マリリンと共にスコットランドに向かいます。そして、そこで待っていたのは・・・
ハーモニー・コリン監督
代表作
KIDS | (1995) 脚本のみ |
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ガンモ | (1997)脚本・監督 |
ジュリアン | (1999)脚本・監督 |
ミスター・ロンリー | (2007)脚本・監督 |
スプリング・ブレイカーズ | (2012)脚本・監督 |
19歳の時に書いた「KIDS」は、酒、セックス、ドラッグ、暴力、エイズに関する少年、少女たちの日常を描いた作品です。公開当時はショッキングな内容の作品として話題になりました。
ハーモニーコリンの作品は映画だけにとどまらず、supremeのプロモムービーを撮影したり、GUCCIのキャンペーンフィルムを撮影したりと、その才能は映画界以外でも発揮されています。
また、絵画や写真などの作品も発表しており、ハーモニーコリンを表すには映画監督という枠でくくるよりも、アーティストとして紹介させていただいた方が妥当なのかもしれません。
キャスト
マイケル役のディエゴ・ルナはメキシコの俳優さんで、代表作は2001年製作のメキシコ映画「天国の口、終わりの楽園。」のテノッチ役や2016年製作の「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」のキャシアン・アンドー役があります。
マリリン役のサマンサ・モートンはイギリスの女優さんで、1999年製作、ウディ・アレン監督作「ギター弾きの恋」の口の聞けない女性のハッティ役でアカデミー助演女優賞をノミネート、2003年「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」ではアカデミー主演女優賞にノミネートされます。
最近ではドラマ「ウォーキング・デッド」のシーズン9からアルファ役として出演して話題となりました。
またこの作品には、有名な映画監督も2人特別出演されています。
神父役で出演しているドイツの映画監督であるヴェルナー・ヘルツォークと、レナード役で出演しているフランスの映画監督のレオス・カラックスです。
ヴェルナー・ヘルツォークは1960年代に映画監督としてデビューし、ドイツ映画界における映画監督の新世代の1人として認められました。
代表作は「アギーレ/神の怒り」(72)や「フィツカランド」(82)。ハーモニー・コリン監督の2作目「ジュリアン」にも出演しています。
レオス・カラックスは1983年、23歳の時に「ボーイ・ミーツ・ガール」で長編映画でデビューします。
そして、フランス映画界において、同世代である映画監督のリュック・ベッソン、ジャン=ジャック・ベネックスと共に「恐るべき子供たち」と呼ばれ、脚光を浴びます。代表作は「ポンヌフの恋人」(91)。
レオス・カラックス監督、そしてこの作品の監督であるハーモニー・コリン監督、共に若くして脚光を浴びるという共通点があり、またレオス・カラックス監督のデビューからの3作品で撮影を担当していたジャン=イヴ・エスコフィエがハーモニー・コリン監督デビュー作「ガンモ」の撮影を担当していたという共通点もあります。
また、レオス・カラックス監督作品の常連俳優である、ドニ・ラヴァンがチャップリン役で出演しています。
レオス・カラックスとドニ・ラヴァンが同じ作品で出演しているというのも、映画ファンにとってはうれしい演出です。
また、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズの元恋人で「ストーンズの女」と言われた、モデルで女優のアニタ・パレンバーグが女王役で出演しています。
そして、赤ずきん役のレイチェル・コリンはハーモニーコリン監督の奥様です。
ある意味、豪華な出演者陣にハーモニー・コリン監督の人脈とセンスを感じます。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
2ウサコックです。 (最高4ウサコック)
個人的に好きなシーンや好きなカットは多々あったのですが、個人的にもう少しアングラ感があった方が好きなので、この評価にしました。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。
3カプサ君です。映画通向け作品です。(最高4カプサ君)
見やすい作品だと思いますが、モノマネ芸人のマイケルの話と並行して、修道女の話も描かれています。
この2つのストーリーは直接的には繋がっておらず、観ている者がどういった関係性があるのかを考察しなければなりません。
ただストーリーを追うだけだと、意味がわからない可能性があるので3カプサ君です。
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感想と考察(ネタバレあり)
その①
誰かの仮面を被って生きるモノマネ芸人たち
この作品に出てくるモノマネ芸人たちは決して器用ではありません。
何人かのレパートリーがある訳ではなく、誰か1人だけになりきって生きています。マイケルもマイケル・ジャクソン一本で生活しています。
オンオフのスイッチはありません。24時間365日常にマイケル・ジャクソンとして生活しています。
そうして生きているうちに、自我というものが希薄になりアイデンティティが失われていきます。
作中にモノマネ芸人たちが、みんな白い服を着て黒い袋を被り顔を隠し躍っているシーンがあります。
このシーンでは、モノマネ芸人たちがアイデンティティを失っている事を表していて印象深いシーンでした。
しかし、他人の仮面を被っている方が、現実の自分の行動や思考に責任を持たなくてもいいので、楽に生きていけます。
それは、今のネット社会での匿名性に近いものがあるではないでしょうか?現実の自分でない誰かになることで、大胆にも、攻撃的にもなれます。
コミュニケーションが苦手なマイケルも、マイケルジャクソンになりきる事で社会に適合する事ができていたのでしょう。
しかし、マリリンの死によってマイケルジャクソンの仮面を外し生きていくという選択をします。
マリリンを愛していたからこそ、自我に目覚めたといえるのではないでしょうか?
その②
修道女の奇跡
飛行機から誤って落ちてしまう修道女。パラシュートもなく落下しますが奇跡的に無傷で生還します。
実際には絶対ありえない事なのですが、これが実に映画的で大好きなところです。
修道女が空を舞っているシーンはとてもシュールで、とても美しく、お気に入りのシーンです。
自転車に乗ってパラシュートなしでスカイダイビングする修道女。この組み合わせのセンスは観ていて惚れ惚れしました。
神への信仰心がこのような奇跡を生むのですが、最後にはバチカンへ向かう途中、飛行機事故で修道女たちは死んでしまいます。
なぜ、最後に奇跡は起きなかったのでしょうか?
バチカンのローマ法王に認められるという「名声」を求めてしまったせいで、純粋だった信仰心が不純なものになってしまったからではないかと思います。
飛行機に乗る前、シスターは法王の手にキスをする練習として、神父の手にキスをします。このキスにより魔法が解けて奇跡は起きなくなったと私は解釈しました。
最後に
この作品の魅力は、シュールで、違和感を感じる映像の美しさと世界観ではないかと思います。
スコットランドの自然の中で生活するモノマネ芸人たち。美しい自然とあまり似ていないモノマネ芸人たちとの調和はめちゃくちゃ違和感があるのですが、この組み合わせが独特の世界観を表しています。
そして、上記の修道女のスカイダイビングのシーンや、卵に描いたモノマネ芸人たちの絵が実際の顔に変わり浮かんでくるシーンなど、現実では起こりえない事象を描くことで、作品の空気が変わり、「退屈さを感じさせないな」と思う一方、「ストーリーに入り込みにくく、感情移入がしにくかった」という点もあったあったように感じました。
そして、マイケルの話と修道女の話の接点は何なのでしょうか?
最終的に、マイケルジャクソンの仮面を脱いだマイケルは自分を見つける為にパリの街を徘徊します。
一方、シスター達は神への純粋な信仰心を脱ぎ、神の子から人間へと変わってしまったため事故に合って死んでしまい、死体となって海を漂います。
海に漂うシスター達の死体は、パリの街に漂うマイケルと対比(絶望と希望)しているように私は感じました。
また、マリリンの自殺が突然すぎて驚きました。
羊を殺すエピソードや、首吊りの歌などの、伏線はあったのですが、マリリンの心の葛藤や心が病んでいた部分を、もう少しクローズアップして欲しかったなあと思います。
ヴェルナー・ヘルツォークやレオス・カラックスが出演していたり、シュールな映像が美しかったりするところが見どころではでしょうか。登場人物に感情移入できなかったので、ストーリーには入り込めないと感じた作品でした。