1960年代ヨーロッパ

映画「5時から7時までのクレオ」感想と考察(後半ネタバレあり)アニエス・ヴァルダ監督

「5時から7時のクレオ」はどんな映画?

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今回、ご紹介する作品は「5時から7時のクレオ」です。

この作品は1961年に製作されたアニエス・ヴァルダ監督作品です。

この作品は予算が少なかったため、クレオが過ごす5時から7時をほぼリアルタイムで描くという形になりました。

低予算を逆手に取る、アニエス・ヴァルダ監督の手腕が見どころの作品です。


5時から7時までのクレオ アニエス・ヴァルダ HDマスター [DVD]

目次

作品情報

監督アニエス・ヴァルダ
製作年1961年
製作国フランス・イタリア
キャストコリンヌ・マルシャン
上映時間90分

 

あらすじ

歌手のクレオは、自分が癌に侵されているのではないかと不安な日々を過ごしていました。

病院の診断結果が出る当日、クレオは買い物をしたり、恋人と会ったり、新曲の打ち合わせをしたりして気を紛らわそうとするのですが、不安は募る一方です。

不安な気持ちのまま、クレアは街を彷徨います。

診断結果が出る時間が刻一刻と迫り、いよいよクレアは病院へと向かいます。そして・・・

この作品は、午後5時から診断結果が出る午後7時までのクレオの様子を、ほぼリアルタイムで描いています。

始めの5分はカラーですが、残り85分はモノクロの作品です。

アニエス・ヴァルダ監督

代表作

ラ・ポワント・クールト(1954)監督
5時から7時までのクレオ(1961)監督
幸福(1964)監督 ベルリン映画祭銀熊賞受賞
ダゲール街の人々(1975)監督
アニエスv.によるジェーンb.(1987)監督
百一夜(1994)監督 映画誕生百年記念作品
アニエスによるヴァルダ(2019)監督

元々写真家として活動していたアニエス・ヴァルダ監督は、1954年にデビュー作「ラ・ポワント・クールト」を自主制作で発表します。

この作品は全編屋外で撮影されました。当時の映画は、スタジオでセットを組んで撮影するのが常識だったので、この作品はとても斬新な作品だったといえるでしょう。

この作品が発表された後、1950年代後半にフランス映画における映画運動、「ヌーベルヴァーグ(新しい波)」が始まります。

「ヌーベルヴァーグ」とは、撮影所などでの下積み経験なしでデビューした若手監督による、これまでの映画制作の手法に囚われない新しい映画を作ろうとした映画運動です。

「ヌーベルヴァーグ」の作品では、ロケ撮影や、同時録音、即興演出など、これまでの映画とは違った方法で映画を制作しました。

この「ラ・ポワント・クールト」はヌーベルヴァーグに先立つ先駆的作品となり、アニエス・ヴァルダ監督は「ヌーベルヴァーグの祖母」と呼ばれるようになります。

1962年には映画監督であるジャック・ドゥミと結婚しました。

夫であるジャック・ドゥミ監督の代表作は、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」です。これらの作品は、これまでのミュージカル映画に新風を吹込みました。

また、アニエス・ヴァルダ監督は、フィクションの作品だけでなく、ドキュメンタリー作品も数多く発表しています。

「リアル」を表現する写真家としての視点が、ドキュメンタリー作品に反映されているように感じます。

晩年には、私たちに「ビジュアル・アーティスト」としての一面を見せてくれました。

「ビジュアル・アーティスト」としての活動として、2003年にジャガイモをテーマにした「パタテュートピア」や、2006年にカルティエ現代美術財団の依頼で、夫、ジャック・ドゥミと過ごした思い出の島、「ノワールムーティエ」をテーマとした展覧会「島と彼女」を手掛けます。

2015年には、カンヌ映画祭名誉パルムドールを、2017年には米アカデミー賞名誉賞を受賞しました。

そして、2019年3月、90歳で人生の幕を閉じられます。

キャスト

主演はコリンヌ・マルシャンです。アニエス・ヴァルダ監督の夫である、ジャック・ドゥミ監督作品「ローラ」に出演しており、それがきっかけでクレオ役に抜擢されます。

この作品の音楽を担当しているミシェル・ルグランが作曲家役で出演しています。

ミシェル・ルグランは、フランスを代表する作曲家で、数多くの作品の映画音楽を手掛けています。

ミシェル・ルグランの代表作は、アニエス・ヴァルダ監督の夫であるジャック・ドゥミ監督作品「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」があります。

また、劇中で登場する無声映画に、ヌーヴェル・ヴァーグを代表する映画監督のジャン=リュック・ゴダールと、ゴダール監督の当時の妻であり女優のアンナ・カリーナが出演しています。

ナツカレー
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ヌーヴェル・ヴァーグ好きにはうれしい演出だね!
うさカレー
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若きゴダール監督はイケメンだし、アンナ・カリーナもすごくかわいいね。素晴らしい映画監督と女優さん、理想の夫婦だね
ナツカレー
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この後、離婚しちゃうけどね。

 




ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数

2ウサコックです。(最高4ウサコック)

写真家としても活躍していたアニエス・ヴァルダ監督らしい作品です。

リアルタイムで描く事によって、フィクションでありながら、ドキュメンタリー作品を彷彿とさせる作品となっています。

病気の不安を抱えたクレオの心情をうまく表した作品となっています。

ただ、クレオ演じる女優さんにあまり魅力を感じませんでしたので評価を下げました。

うさカレー
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これは好みの問題だね

カプサ君の激辛(マニア度)指数

カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。

3カプサ君です。映画好き向け作品です。(最高4カプサ君)

ただストーリーを追う作品というよりは、クレオの心情をどう描写しているのかを観る作品と感じたので、映画好き向けの作品としました。

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感想と考察(ネタバレあり)

 

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1つお断りしておきますが、これからお話する感想はあくまで僕が感じた感想です。製作者の意図や文化人の批評とは違うことがあります。しかし、そこは皆さまの温かい善意によって読んでいただけたらと思っております。

その①

歌手としてのクレオと、1人の女性としてのクレオ

前半部分は、歌手としてのクレオが描かれています。

印象的なのは帽子屋のシーンです。

このシーンでは、直接クレオを撮るのではなく、間接的にクレオを撮っているところが多く見られます。

例えば、店内の鏡や、通りの風景が反射しているガラスを通してクレオの姿を映し出しています。

直接クレオを映すのではなく、ガラスや鏡ごしにクレオを撮る事で、TVやラジオという媒体を介して表現している「歌手としてのクレオ」を表しているように感じました。

後半になると、歌手としての象徴的アイテムであるウィッグを外し、歌手としてではなく、1人の女性としてのクレオとして描かれています。

前半とは違い、クレオの視点から観た街の人々や風景のシーンやカットが多くなります。

このように、前半と後半でクレオの描き方が違うところが見どころの1つです。

その②

パリの街と人々

この作品は予算が少なかったため、旅費や宿泊費がかからないパリで撮影されました。

写真家でドキュメンタリー作品も数多く撮っているアニエス・ヴァルダ監督らしく、パリの街並みの風景や人々の表情は素晴らしいと感じました。

走るタクシーの中からパリの街並みを撮っているシーンがあるのですが、ただ風景を映すのではなく、バックミラーに映るタクシー運転手の表情も一緒に映っています。

それにより、臨場感が感じられ、ドキュメンタリー作品のようなリアリティを感じました。

また、街でカエルを飲み込む大道芸人が出てきます。

このシーンは元々台本にはなかったとの事です。

これは、ちょうどクレオがマンションから出るシーンを撮影していた時に、撮影現場近くで大道芸をしているところをアニエス・ヴァルダ監督が見て、このシーンを追加したそうです。

こういった即興演出もアニエス・ヴァルダ監督作品の魅力の1つでしょう。

その③

クレオとアントワヌ

作品後半で登場するアルジェリアからの帰還兵であるアントワヌ。

アントワーヌは公園でクレオに声をかけてすぐに意気投合し、クレオの検査結果を一緒に聞きに行きます。

二人は、「戦場」と「癌」と種類は違えど「死」への恐怖という部分でお互い共感を覚えました。

このアントワーヌは知的でユーモアもあり、お互いの共通点を見つけて親近感を湧かせ、さりげないボディタッチから徐々にクレオとの距離を縮めていきます。

観ていて、アントワヌは女性とのコミュニケーションに長けている印象を受けました。

こういったキャラクターは、「爽やかなイケメン」と相場が決まっているのですが、この作品でアントワヌを演じているのは、あまり爽やかとは言えないすきっ歯の俳優さんでした。

主役のクレオもアントワヌも、それほど有名ではない俳優さんを起用しています。

個人的には、この主要キャストが少し物足らない印象を受けました。

最後に

最終的には、クレオは癌を宣告されます。

しかし、これまで描かれていたような不安を抱えたクレオではなく、病気に立ち向かう希望を持った強い女性として描かれ、物語は終わります。

結果が出るまでは不安で一杯なのですが、いざ結果がわかってしまうと腹をくくって立ち向かう姿は、世の女性の姿を表現していると感じました。

こういった状況でうろたえるのは男性の方で、前を向いて問題に立ち向かうのは女性が多いように私は思います。

ナツカレー
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女性の弱い部分と強い部分を表現した作品だね。