「ダゲール街の人々」はどんな映画?
今回、ご紹介する作品は「ダゲール街の人々」です。
この作品は1975年に製作されたアニエス・ヴァルダ監督作品です。
ドキュメンタリー作品です。
目次
作品情報
監督 | アニエス・ヴァルダ |
---|---|
製作年 | 1975年 |
製作国 | フランス |
キャスト | ダゲール街の人々 |
上映時間 | 79分 |
あらすじ
アニエス・ヴァルダ監督が亡くなるまで68年間住み続けた、パリ14区のダゲール通り。
そのダゲール通りにあるパン屋、肉屋、美容院、仕立て屋などの様々な商店の日常を様子を1975年に撮影したドキュメンタリー作品です。
ドイツのテレビ局からこの作品を依頼が来た時、アニエス・ヴァルダ監督には2歳の息子さんがいました。
その頃、子育てを優先していた彼女は長期間自宅を離れる企画は避けていました。
その為、この作品は自宅から半径50mの範囲でダケール街の人々を撮影するものとなりました。
そして、テレビ放映されると、ドイツから多くの人がダケール街に訪れたそうです。
このダケール通りは、アニエス・ヴァルダ監督作品に度々登場します。
アニエス・ヴァルダ監督
代表作
ラ・ポワント・クールト | (1954)監督 |
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5時から7時までのクレオ | (1961)監督 |
幸福 | (1964)監督 ベルリン映画祭銀熊賞受賞 |
ダゲール街の人々 | (1975)監督 |
アニエスv.によるジェーンb. | (1987)監督 |
百一夜 | (1994)監督 映画誕生百年記念作品 |
アニエスによるヴァルダ | (2019)監督 |
元々写真家として活動していたアニエス・ヴァルダ監督は、1954年にデビュー作「ラ・ポワント・クールト」を自主制作で発表します。
この作品は全編屋外で撮影されました。当時の映画は、スタジオでセットを組んで撮影するのが常識だったので、この作品はとても斬新な作品だったといえるでしょう。
この作品が発表された後、1950年代後半にフランス映画における映画運動、「ヌーベルヴァーグ(新しい波)」が始まります。
「ヌーベルヴァーグ」とは、撮影所などでの下積み経験なしでデビューした若手監督による、これまでの映画制作の手法に囚われない新しい映画を作ろうとした映画運動です。
「ヌーベルヴァーグ」の作品では、ロケ撮影や、同時録音、即興演出など、これまでの映画とは違った方法で映画を制作しました。
この「ラ・ポワント・クールト」はヌーベルヴァーグに先立つ先駆的作品となり、アニエス・ヴァルダ監督は「ヌーベルヴァーグの祖母」と呼ばれるようになります。
1962年には映画監督であるジャック・ドゥミと結婚しました。
夫であるジャック・ドゥミ監督の代表作は、「シェルブールの雨傘」や「ロシュフォールの恋人たち」です。これらの作品は、これまでのミュージカル映画に新風を吹込みました。
また、アニエス・ヴァルダ監督は、フィクションの作品だけでなく、ドキュメンタリー作品も数多く発表しています。
「リアル」を表現する写真家としての視点が、ドキュメンタリー作品に反映されているように感じます。
晩年には、私たちに「ビジュアル・アーティスト」としての一面を見せてくれました。
「ビジュアル・アーティスト」としての活動として、2003年にジャガイモをテーマにした「パタテュートピア」や、2006年にカルティエ現代美術財団の依頼で、夫、ジャック・ドゥミと過ごした思い出の島、「ノワールムーティエ」をテーマとした展覧会「島と彼女」を手掛けます。
2015年には、カンヌ映画祭名誉パルムドールを、2017年には米アカデミー賞名誉賞を受賞しました。
そして、2019年3月、90歳で人生の幕を閉じられます。
キャスト
登場する方々は、実際にダケール街で働いておられる方々です。
そんな街の人々の日常の様子や、インタビューで構成されています。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
2ウサコックです。 (最高4ウサコック)
淡々とダケール街の日常を撮られている作品です。
特に事件は起こりませんし、個性的なキャラクターがいる訳でもありません。
1974年のダケール街の人々の様子と、ダゲール街で開かれたマジシャンのショーとが並行して描かれています。
ドキュメンタリー作品といえば、長時間密着し、そこに人間模様やドラマがあって、観ているうちに登場人物に親近感が沸き、感情移入するといった作品が多いように思います。
しかし、この作品ではそういったドラマはありません。
また、出てくる街のお店は特産品のお店や伝統的な物を売っているお店ではありません。
普通のお肉屋さんや普通のパン屋さん、普通の美容院です。
ドラマのあるドキュメンタリーではなく、記録映画の色が濃い為、
おもしろさという面では2ウサコックです。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。
4カプサ君です。映画マニア向け作品です。(最高4カプサ君)
街の日常を描いた記録映画色が強い作品である為、万人向けではありません。
アニエス・ヴァルダ監督作品が好きな方や、1974年の頃のフランスのお店の様子に興味がある方にオススメです。
疲れている時や、お腹いっぱいの時に鑑賞すると、つい、ウトウトするような心地よさがある作品です。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
1974年のフランス
この作品は1974年のダゲール通りの商店の様子が描かれています。
今は、コンビニやスーパー、ショッピングモールが立ち並び、作品の中に登場するような個人商店が数少なくなっています。
劇中では、店主とお客さんとの間に会話があり、お客さんの要望をお店の方が聞いて叶えるという構図が描かれています。
中でも、お客さんの要望で香水をお店の店主が調合して販売しているのには驚きました。
今ではお店に並んでいる既製品を、お客さんが選んでレジで支払いをします。
最近では、レジもセルフレジが増えていますし、支払いもキャッシュレス化が進んでおり、買い物の際にお店の人と接する事も少なくなってきました。
世の中は進化し便利になる一方で、人とのつながりが減ってきた事を感じました。
その②
レジ袋と環境問題
この作品で登場するパン屋さんでは、バゲットを袋に入れたり、紙で包んだりする事なく、裸のままお客さんに渡していました。お客さんもバゲットをそのまま手に持って、家路につきます。
また、お肉屋さんでは、肉の塊から切り落とした生肉を紙でくるっと包んでお客さんに渡しています。
今では考えられないことです。即クレームの対象となりSNSで炎上するでしょう。
この作品の中ではレジ袋やビニール袋は使われていませんでした。
調べてみるとレジ袋が使われだしたのは1970年代後半頃だそうです。ちょうどこの作品の数年後からレジ袋が普及することになります。
レジ袋やプラスチックなどによる海洋汚染や生態系の破壊は、ここ数十年の間の出来事なのです。
ここ数十年で急速な進化がおき、そして地球を急速に傷つけているのです。
この作品の内容とは関係ないのですが、時代の変化のスピードを感じました。
その③
マジシャンのショーとダゲール通りの人々
ダゲール通りの様子とインタアビューと並行してマジシャンのショーの様子が描かれています。
この作品で登場する人物で、唯一ダケール街の人間でないのがこのマジシャンです。
作品の中盤から、このマジシャンのショーとダゲール街の人々の映像がリンクしていきます。
例えば、手を切るマジックを見せた後、お肉屋さんの肉を捌いているシーンになったりとか、舞台でマジックをかけられている人が、次のシーンの被写体になっていたりなど、ただ撮った映像をつなげるだけではなく、観ている者を飽きさせない編集だと感じました。
ダゲール街の日常と、マジックショーという非日常とがリンクすることにより、
「この作品はフィクションなのか?それともノンフィクションなのか?」
そんな、フィクションとノンフィクションの境界線がなくなるような感覚に陥りました。
最後に
オープニングでは、スタッフのクレジットから、赤い文字で映画のタイトルを縦読みで描くところは、とてもかわいい演出で、ヌーベルヴァーグのゴダール映画を思い出しました。
このオープニングでぐっと作品に引き付けられました。
この作品は1度ではなく、2度3度と見たいと思う作品です。
1回目で感じた気づきを2度目、3度目の鑑賞で確認するといった楽しみ方ができる作品だと思います。
1度観ただけでは、この作品の魅力のすべてに気づくことなく終わってしまうと思います。
DVDでじっくり何度も観てみたいと感じる作品でした。
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