90年代アメリカ

映画「KIDS/キッズ」感想(後半ネタバレあり)ラリー・クラーク監督作品

KIDS/キッズ」はどんな映画?

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今回ご紹介するのは「KIDS/キッズ」です。

この作品は1995年製作のアメリカ映画で、写真家としても有名なラリー・クラーク監督の初監督作品です。

この作品は、90年代アメリカの10代の若者たちがアルコール、ドラッグ、暴力、セックスに明け暮れる生活をリアルに描いた作品です。

公開当時アメリカでは、内容があまりにもショッキングなため、17歳以下の鑑賞を禁止されました。

その衝撃的な内容が話題となり、物議をかもした作品です。


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目次

作品情報

 

監督ラリー・クラーク
公開年1995
製作国アメリカ
上映時間91分
キャストレオ・フィッツパトリック(テリー)
キャストクロエ・セヴィニー(ジェニー)
キャストジャスティン・ピアーズ(キャスパー)
キャストロザリオ・ドーソン(ルビー)

あらすじ

少年、テリーとキャスパーは、毎日、酒、ドラッグ、そしてSEXと自由気ままな生活を楽しんでいます。

そんなテリーは、ヴァージンの女の子とセックスすることが生きがいとしていました。

ある日、テリーとだけセックス経験がある少女ジェニーは、経験豊富な友人ルビーの付き添いでHIVの検査を受けに行きます。

結果は、ルビーは陰性で、ジェニーは陽性でした。

ショックを受けたジェシーは、テリーを探しに街をさまようのですが・・・




ラリー・クラーク監督

KIDS/キッズ1995年
BULLY ブリー2001年
ケン・パーク2002年
ワサップ!2006年

ラリー・クラーク監督は、1943年アメリカ生まれで、1960年代に、故郷タルサでドラッグ、SEX,暴力に溺れた自身の友人たちの写真を撮り続け、1971年に初写真集「タルサ」を発表します。

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ラリー・クラーク監督自身も友人と同じようにドラッグに溺れていたんだ


Tulsa

この作品は、写真界のみならず、映画界にも大きな衝撃を与えることになります。

ロバート・デ・ニーロ主演、マーティン・スコセッシ監督作品である「タクシードライバー」(76)や


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「KIDS/キッズ」の製作総指揮を務めるガス・ヴァン・サントの監督作品である、「ドラッグストアカウボーイ」(89)は「タルサ」の影響を受けた作品です。


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その後、1983年に若者たちの行き場のない欲望に向き合った写真集「ティーンエイジ・ラスト」を発表し、写真家としての評価を不動のものとしました。

そして、1995年に「KIDS/キッズ」で映画デビューを果たします。

ハーモニー・コリン

ラリー・クラーク監督は、47歳の頃にニューヨークでスケートボードを始めます。

10代の若者に混ざって、スケートボードに明け暮れる日々を過ごすなか、ラリー・クラーク監督は、大人が知らない10代スケーターたちの「リアル」を描きたいと考えていました。

そのためには、プロの脚本家ではなく、実際のスケーターに描いてもらわないといけないと考え、一人の少年に脚本を依頼します。

その少年の名は、ハーモニー・コリンです。

ハーモニー・コリンは弱冠19歳で「KIDS/キッズ」の脚本を書きあげ、高い評価を受けました。

そして、1997年に、ハーモニー・コリン初監督作の「ガンモ」を発表します。

この頃、ハーモニー・コリンは、ジェニーを演じているクロエ・セヴィニーと交際していました。




スケーターファッション/ Supureme

「KIDS/キッズ」のキャストは、プロの俳優はほとんどおらず、大体が監督のスケーター仲間です。そう聞くと、監督が「リアル」にこだわっていたことがわかります。

また予算が少なかったため、衣装にまで手が回らず、出演者のほとんどが自前の服を着て撮影に臨みました。

その結果、キャストのほとんどがSupuremeの服を着ていたそうです。

Supuremeは、日本でも人気のあるブランドです。今では、セレブや芸能人にファンが多く、「価格が高騰するプレミア商品が多いブランド」というイメージがありますが、この頃は、スケーターブランドのセレクトショップでした。

当時、Supuremeのショップは、スケートボードが試し乗りできるよう、広々とした店づくりで、地元のスケーターのたまり場になっていました。

そのため、ほとんどの出演者がSupuremeの服を着ていることは、この作品が「リアルに描かれている」という証明になったのです。

90年代の「リアル」なスケーターファッションや、当時のSupuremeの服(Supuremeのトレードマークであるボックスロゴがついていない!)をチェックするのも、楽しみ方の1つだと思います。

キャスパー役のジャスティン・ピアースや、子役で出演していた、ハビエル・ヌネズがSupuremeのスケーターチームのメンバーだったり、後に、Supuremeがラリークラークやハーモニー・コリンとコラボしたりと、「KIDS/キッズ」はSupuremeととても深い関係にある作品です。

キャスト

この作品は、プロの俳優を使わなかったのですが、この作品でデビューし、今も俳優として活躍している方がいます

まずは、HIVに感染した少女ジェニーを演じていたクロエ・セヴィニーです。

この作品がデビュー作で、当時、ハーモニーコリンと恋愛関係にありました。ですので、この作品以降も、ハーモニーコリン監督作品である「ガンモ」(97)や「ジュリアン」(99)にも出演しています。

「ガンモ」では、衣装デザインにも関わり、その後も、ファッションデザイナーやモデルなど、マルチな才能を発揮されています。

次に、ジェニーと一緒に検査を受けに行った友人のルビーを演じた、ロザリオ・ドーソンです。

ロザリオ・ドーソンは自宅前で、ハーモニーコリンにスカウトされ、この作品でデビューしました。

その後、スパイス・リー監督作「ラストゲーム」(98)、「25時」(02)や、「メン・イン・ブラック2」(02)「シン・シティ」(05)などに出演しています。

また、2020年には、「スターウォーズ」の実写ドラマシリーズ「マンダロリアン」で、人気キャラクターのアソーカ・タノを演じて話題になりました。

スケーターの不良少年、テリーを演じたのは、レオ・フィッツパトリックです。

監督ラリー・クラークに誘われて、この作品に出演しました。

公開時、「KIDS/キッズ」がドキュメンタリー作品だと勘違いする人々から、自身が「ヴァージンキラー」だと思われることに悩まされていたそうです。

現在は、俳優のほかにアートキュレーター(アート作品の展覧会を企画する人)としても活動されています。

しかしその一方、すでにこの世を去ってしまった出演者もいます。

テリーの友人のキャスパーを演じた、ジャスティン・ピアースです。

彼も、この作品以降も俳優として活動していたのですが、2005年にロサンゼルスのホテルで「世の中が嫌になった」と言葉を残し、自ら命を絶ちました。

彼は「KIDS/キッズ」の撮影中、クラブのバウンサー(用心棒)とのいざこざで手首を骨折してしまいます。

そのため、プールのシーンでは、痛みを抑えるため、腕を頭の後ろで組んで撮影に挑みました。

役柄だけでなく、現実でもヤンチャな俳優と思わせるエピソードです。

もう一人が、キャスパーの友人ハロルドを演じた、ハロルド・ハンターです。

ハロルド・ハンターは、プロのスケーターとして活躍していて、「スケーター界のレジェンド」と呼ばれる存在でした。

しかし2006年、コカインのオーヴァードーズ(過剰摂取)でこの世を去ってしまいます。




ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数

3ウサコックです。(最高4ウサコック)

この作品はフィクションであるのですが、ドキュメンタリー作品のような「リアル」さが感じられます。

この作品で描かれている世界は、陰キャの私にとっては、全く縁のない世界です。

ただ、この作品内の若者たちとやっていることは違うのですが、10代の頃仲間とつるんで遊んだことを思い出しました。

しかし、登場人物に感情移入できなかったので、3ウサコックにしました。

カプサ君の激辛(マニア度)指数

カプサ君の数が多いほど、マニア向けの作品となっております。

3カプサ君です。映画好き向けの作品です。(最高4カプサ君)

90年代における10代の若者(ごく一部の人々ではありますが)の姿に、いわゆる一般的な「常識」を持っておられる方は、嫌悪感を示されるかもしれません。

ストーリーを楽しむような作品ではなく、90年代の空気感を感じたり、欲望に対して正直すぎる若者たちの生活を垣間見る作品となっております。

ドラッグ#アルコール#セックスHIV#スケーターsupreme#ラリー・クラーク#ハーモニー・コリンクロエ・セヴィニーロザリオ・ドーソン#ハロルド・ハンター




感想と考察(ネタバレあり)

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1つお断りしておきますが、これからお話する感想はあくまで僕が感じた感想です。製作者の意図や文化人の批評とは違うことがあります。しかし、そこは皆さまの温かい善意によって読んでいただけたらと思っております。

その①

臨場感のあるシーンやカット

この作品の魅力は、やはり「リアルさ」でしょう。

この作品は、フィクション作品でありながらも、ドキュメンタリー作品のような趣きがあります。

キャストや脚本には、プロではない「リアル」な若者を採用したことからもわかるように、監督は「リアルを描く」ことを一番大切していると伝わってきます。

しかし、フィクションを「リアル」に見せることは、容易なことではありません。

あまり構図にこだわると、どうしても作られた感が出て、リアルさに欠けてしまいます。

自然でありながら、かっこいい構図で、なおかつ、実際その場にいるような臨場感を出さないといけません。

しかも、「伝説の写真家」と呼ばれているラリー・クラークのデビュー作です。観客も高いレベルの作品でないと満足しないことでしょう。

そんな期待に胸を膨らませた観客の目に飛び込んできた、この作品のファーストカットは、まだあどけなさが残る少年と少女の濃厚なキスシーンです。舌を絡ませあいキスをする2人の顔を、アップで映し出される映像は、出会いがしらにパンチをくらったような衝撃を受けました。

このファーストショットにより、私は、完全にラリー・クラーク監督のペースに呑まれてしまいました。

そして、手持ちカメラによって撮られた、10代の少年、少女たちの日常を描く映像は、その場にいるような臨場感を感じますし、その固定されていないカメラの動きは、若者たちの躍動感や、まだ成熟していない若者たちの不安定な心情をうまく表しているように感じました。

また、未成年の素人が出演しているため、胸や陰部をあらわにしているシーンはありませんし、直接的な性表現も抑えています。

しかし、そうした直接的な性表現が少ない代わりに、濃厚なキスをしているシーンが多いです。いくら外人は人前でキスをするといっても、あんな濃厚なキスは、人前ではそうそうしないと思います。そんな濃厚なキスシーンを見せることで、オープンで開放的な若者をうまく表していると感じました。

また、終盤に10歳前後の少年4人が、ソファーに座り、マリファナを吸っているシーンがあります。このシーンで「本物のマリファナを吸っているのではないか?」と問題になりました。そのくらい、描写がリアルだったということでしょう。

その②

HIV

ジェニーはHIVに感染してしまいます。

HIVとは、「ヒト免疫不全ウィルス」といい、感染症に対する免疫を低下させ、エイズ(健康時には発症しない弱いウィルスなどに侵され、様々な症状を引き起こすこと)を発症させます。エイズを発症すると死に至るケースが大多数であったため、「エイズ=死の病」と思われてきました。

しかし、現在では、薬を飲んだり、骨髄移植により、HIVの増殖やエイズの発症を抑えることができます。

しかし、完治するのは難しく、一生病気と付き合っていかなければなりません。

HIVの感染経路として挙げられるのが、性行為、血液感染、母子感染の3種類です。

ジェシーは、テリーとの性行為によって感染します。テリーも恐らく性行為からだと思いますが、薬物注射の回し打ちからの血液感染という可能性もあります。

HIV感染者の数は、90年代から増え続けています。日本では2013年をピークに減少していますが、2020年においても、年間約1000人の方が新たにHIV感染、またはエイズを発症しています。

この作品内でのテリーのように、気付かないうちに感染し、他人に感染させてしまうケースが多いのではないでしょうか。

これは、今のコロナ禍にもいえることです。

「まさか自分がかかるはずがない」

みんなそう思っていても、ウィルスは身近に潜んでいます。

感染しない、そして広めない為にも、予防は必要だということを、改めて感じました。

その③

ジェニー

この作品は、ジェニーがHIV陽性の診断結果を知った日の、1日の様子を描いています。

1961年のフランス映画で、「5時から7時までのクレオ」という作品があります。

この作品は、「自分は癌ではないか?」と思っている女優の、医者の診断結果がでるまでの2時間(5時から7時まで)を描いている作品です。この作品の中で、クレアは不安を紛らわすため街を徘徊します。

医者の診断前と、診断後との違いはありますが、病気の不安を抱え、街をさまようという共通点がジェニーとクレオにはあったため、中盤からは「5時から7時のクレオ」を思い出しました。


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ジェニーは、友人の家にいたテリーを見つけます。

テリーは、SEXの真っ最中でしたが、ジェニーはそれを止めませんでした。また、翌朝、キャスパーに犯されますが、この時もあまり抵抗しませんでした。

ジェニーは、「初めてのセックスでHIVに感染してしまった」という過酷な現実を受け止められておらず、また薬物もやっていたため、意識がもうろうとして、まともな判断ができていなかったという理由もありますが、「自分だけ不幸になるのはまっぴら」と、テリーの相手の女性を道連れにする気持ちと、いつも「やり逃げ」している男たちへの復讐、そして、もうどうなってもいいという自暴自棄な気持ちも見受けられます。

「死」を身近に感じた時、人間は冷静な判断ができず、どうしても「自分本位」な考えになってしまうのだと思います。それが10代の少女であれば、なおさらの事でしょう。

最後に

この作品では、ドラッグに、アルコールに、セックスにと、欲望に正直な「KIDS」が登場しました

しかし、現代社会を見まわしてみると、それは少年、少女に限ったことではありません。

欲望に正直な、年取った「KIDS」は、世の中にはたくさんいます。

自分の欲望に正直なのはいいですが、自分の行動に責任を持つことが、友人や、家族、なにより自分を守ることになると私は思います。

各々が責任ある行動を取ることで、守られる命もあるということを、改めて思い出さてくれた作品でした。

ナツカレー
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そうした責任感こそが、感染症を蔓延させないことにつながるのではないかな
うさカレー
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自分の身は自分で守らないとね