「飛行士の妻」はどんな映画?
今回、ご紹介するのは「飛行士の妻」です。
この作品は1980年製作、フランスの作品で、監督はエリック・ロメールです。
この作品はエリック・ロメール監督が1980年代に撮った「喜劇と格言シリーズ」の1作目となります。
飛行士の妻 (エリック・ロメール コレクション) [DVD]
目次
作品情報
監督 | エリック・ロメール |
---|---|
公開年 | 1980年 |
製作国 | フランス |
上映時間 | 107分 |
キャスト | フィリップ・マルロー(フランソワ) |
キャスト | マリー・リヴィエール(アンヌ) |
あらすじ
20歳の大学生、フランソワは夜勤あがりの朝7時に、年上の彼女であるアンヌの部屋に向かいます。
その頃アンヌの部屋には、ここ数カ月音信不通だったパイロットをしている恋人のクリスチャンが訪れていました。
既婚者であるクリスチャンは、妻との間に子供が出来た事を理由に、不倫関係にあったアンヌに別れを告げます。
話を終え、ちょうどアパートから出てきた2人をフランソワは目撃します。
2人を見たフランソワはとっさ姿を隠します。
その後フランソワは、アンヌの仕事場に電話したり、 アンヌがランチをしているカフェに出向いたりするのですが、一向に取り合ってもらえません。
フランソワは仕方なく家路につくのですが、偶然カフェで女性と一緒にいるクリスチャンを見かけます。
そしてフランソワは、カフェを出たクリスチャンを尾行し始めるのですが・・・
エリック・ロメール監督
エリック・ロメール監督は1950年代に始まった映画運動「ヌーヴェル・ヴァーグ」を代表する映画監督です。
エリック・ロメール監督は、何本かの作品を連作として1つのシリーズとしているのが特徴でもあります。
1960年代から1970年代にかけて「六つの教訓話」シリーズと題して6つの作品を発表しました。
1980年代には、この「飛行士の妻」を含む6作を「喜劇と格言シリーズ」として、また1990年代には「四季の物語」シリーズとして、春夏秋冬を描いた4作を発表しています。
「喜劇と格言シリーズ」
飛行士の妻(1980) | 「人は必ず何かを考えてしまう」 |
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美しき結婚(1981) | 「夢想にふけらない人がいようか、空想を描かない人がいようか。」 |
海辺のポーリーヌ(1983) | 「言葉多き者は災いの元」 |
満月の夜(1984) | 「二人の妻を持つ者は心をなくし、二つの家を持つ者は分別をなくす」 |
緑の光線(1985) | 「ああ、心という心の燃える時よ来い」 |
友だちの恋人(1987) | 「友だちの友だちは友だち」 |
この作品を含む「喜劇と格言シリーズ」は、恋愛をテーマに描いた会話劇です。
「喜劇と格言シリーズ」という事で、各作品の冒頭にはその作品についての「格言」が出てきます。その「格言」が作品のテーマになっているので、ストーリーにすんなりと入っていく事ができます。
キャスト
主演である大学生の青年、フランソワを演じるのはフィリップ・マルローです。
出演当時、彼は本当の大学生でした。
ちょっと頼りなくて、おもわず応援したくなるような大学生を好演していました。
しかし、この撮影の1年後、残念な事に彼は火事によって命を落としてしまいます。
フランソワの彼女であるアンヌを演じるのは、マリー・リヴィエールです。
彼女は、エリック・ロメール監督作品の常連女優さんで、「緑の光線」や「恋の秋」などに主演として出演しています。
フランソワと一緒にクリスチャンを尾行する少女リュシーを演じるのは、アンヌ=マリー・ムーリです。
彼女の役は15歳の少女という設定なのですが、大人っぽくてとても15歳には見えません。
ただ、時折みせるあどけない表情には幼さが残っていて、とても魅力的な女優さんです。
ポロシャツにヨット用のレインコートを羽織っているのもかわいかったです。
彼女はエリック・ロメール監督作品である「友だちの恋人」にも出演しています。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
4ウサコックです。(最高4ウサコック)
彼女とべったりいたいと考えるフランソワと、彼氏とは一定の距離を保っていたいアンヌとの、恋愛観の違う男女のドラマです。
この作品のストーリーの大半部分は、フランソワがカフェで見かけた彼女の元彼を尾行するお話になります。
尾行したところで何の解決にもならないのですが、徹夜明けにもかかわらず、フランソワは後をつけていってしまいます。
学生時代では、誰しもがこういった「何してるんだろ?」といった無駄な時間の使い方をした経験があると思います。
そんな学生時代の事を思い出させてくれる作品でした。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほど、マニア向けの作品となっております。
3カプサ君です。 (最高4カプサ君)
恋愛観の違う2人の、ある1日を描いた作品です。
会話が中心の作品で、手に汗握るようなサスペンスの要素や、ドラマティックな展開などはほぼありません。
ですので、退屈と感じられる方もいらっしゃると思います。
ただ、重苦しさはなく、登場人物たちがリアルで等身大のドラマなので、とても見やすく、友人や知人の話を見聞きしているような感覚で鑑賞できます。
また、この時代には携帯電話やスマートフォンもなく、メール、SNSなどもありません。
恋人と連絡を取るのも大変な、この時代の恋愛事情も見どころの1つであります。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
フランソワ
朝、彼女のマンションから元彼と出て来るところを見て、フランソワは思わずその場から逃げ去ります。
この状況で、元彼と「対峙する」か、「逃げる」かの選択で「逃げる」を選ぶ気持ちはよくわかります。
しかし、もしそこで「対峙」していれば、その疑惑を晴らそうと、彼女の職場に電話をしたり、カフェに行ったり、元彼を尾行する事もなかった事でしょう。
結果として、問題を先送りする事で余計な疑念が膨らみました。
また、フランソワは度々うたた寝したり、15歳の少女であるリュシーに対して感情的になったりと、人間的な幼さを感じます。
アンヌの部屋では、年上のアンヌに完全にコントロールされていて、彼氏というより、とても従順な弟のようでした。
最後、リュシーに手紙を送るのですが、まったくメリットがないのにも関わらず、手紙を捨てずにわざわざ切手まで買って送る律儀さが、フランソワの憎めないところです。
その②
アンヌ
アンヌは、パイロットのクリスチャンと不倫関係にありました。
別れの際に「2度目の別れ」と言っていたことから、1度別れてから、再度付き合っています。
また、アンヌは25歳で、過去に3年間同棲した経験があると言っていました。
年齢から考えても、同棲していた相手はクリスチャンだと思われます。
クリスチャンは、「ひどい言葉を吐く、人を傷つける人で、2人の関係を否定しかねない人」とアンヌが語っていたので、同棲時代に束縛がきつかったのか、モラハラに近い事があり、それがトラウマになっているのかもしれません。
そのため、アンヌはクリスチャンと同棲解消して距離を開けたのか、別れたかして、その結果、クリスチャンは他の女性と結婚する事となります。
その後、アンヌとクリスチャンは交際を再開させますが、クリスチャンと音信不通になったアンナは、5歳年下のフランソワと付き合い始めます。
フランソワはアンヌの事を追ってくれるし、真面目で従順なので、クリスチャンと音信不通になり精神的に疲れ気味なアンヌにとって、癒し効果があったのだと思います。
不安定な精神状態の原因だったクリスチャンと別れた今、アンヌにとってのフランソワの役割は終わったように感じます。
アンヌは意外と恋愛経験はあまり多くありません。
恋愛のほとんどをクリスチャンに費やしています。
カフェで友だちが「恋愛経験が多い私から言うと・・・」とみたいな事を言って、アンヌにアドバイスしていましたのを見ると、アンヌの恋愛経験があまりない事がわかります。
その為、クリスチャンとは真逆のキャラクターで、自分が優位に立つ事ができるフランソワ君と「お試し」で付き合ったのかもしれません。
その③
リュシー
リュシーはフランソワを自分の事をナンパしてきたと勘違いします。
しかし、フランソワから逃げたり、拒絶する事もなく、行動を共にします。
「今日はうんざりしていた」とリュシーは言います。
最後、リュシーが彼氏とキスしている様子が、「けんかの仲直りして盛り上がっている」ように見えますので、多分彼氏とケンカをしてうんざりしているところに、フランソワがナンパしてきたので、ちょっと付きあってみたといった感じでしょうか?
「恋人がいるの?」とか、自分の事を聞かれても、何でも自分のことを話すフランソワとは違い、リュシーはうまくかわします。
また、感情的になるフランソワに対して、自分が折れてフランソワの機嫌を取ったりなど、リュシーの大人びた様子と、フランソワの子供っぽさが、実際の年齢と反比例していておもしろいです。
いい人だけど、男性としての魅力がもう1つ欠けていて、本命になりきれないフランソワに思わず肩入れしてしまいます。リュシーもアンヌと同じく、本命と別れた時の保険としてフランソワをキープします。
その④
16mmフィルム
通常、映画は35mmのフィルムで撮られているのですが、この作品は16mmフィルムで撮られています。
16mmのフィルムのカメラは、主に低予算の作品や自主制作の作品で使用されます。小型のカメラなのでロケの撮影にも向いています。しかし、16mmフィルムは35mmフィルムより画像が粗く鮮明ではありません。
この作品はロケ中心の作品なので、機動性を活かす為に16mmフィルムで撮影されたのでしょう。
また、16mmの画質の粗さが、ドキュメンタリーのようなリアリティーを感じます。
しかし、役者は即興で演技しているのではなく、念入りにリハーサルを重ねて撮影に臨んでいます。
ロケ中心の会話劇なので、アドリブが多いのかと想像していましたが、そうではなかったので少し意外に感じました。
最後に
フランソワの行動には嫌悪感を示す人もいると思いますが、個人的にはフランソワの気持ちがよくわかりました。
周りの事が見えず、自己中心的に行動する精神的な幼さは誰しもが経験してきた事ではないかと思います。
しかし、年齢を重ねても恋愛の事になるとフランソワのようになってしまう人もいるでしょう。
そういった人はこの作品のフランソワ君を見て、自分自身を客観的に見た方がいいかもしれません。
また、物語の始まりでは、フランソワが楽しそうに口笛を吹いていたのに、終わりでは、リュシーの恋人である、フランソワの友人が口笛を吹いて浮かれていました。朝と夜とでフランソワの立場が変わっているところがよかったです。
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