「満月の夜」はどんな映画?
今回、ご紹介する作品は「満月の夜」です。
この作品は1984年フランス製作の作品で、エリック・ロメール監督作品「喜劇と格言シリーズ」の4作目になります。
目次
作品情報
監督 | エリック・ロメール |
---|---|
製作年 | 1984年 |
製作国 | フランス |
上映時間 | 102分 |
キャスト | パスカル・オジェ(ルイーズ) |
キャスト | チェッキー・カリョ(レミ) |
キャスト | ファブリス・ルキーニ(オクターブ) |
あらすじ
ルイーズはパリ郊外で恋人のレミと同棲していました。
しかし、レミとの生活に息苦しさを感じ、パリにある自分の部屋と郊外の家とを行き来する生活を始めます。
レミからの束縛から逃れ、自由になったルイーズは、夜の街を遊び歩きます。
そして、パーティーで青年のバスチアンと出会い、デートの約束をするのですが・・・
エリック・ロメール監督
エリック・ロメール監督は1950年代に始まった映画運動「ヌーヴェル・ヴァーグ」を代表する映画監督です。
エリック・ロメール監督は、何本かの作品を連作として1つのシリーズとしているのが特徴の1つです。
1960年代から1970年代にかけて「六つの教訓話」シリーズと題して6つの作品を発表しました。
1980年代には、この「満月の夜」を含む6作を「喜劇と格言シリーズ」として、また、1990年代には「四季の物語」シリーズとして、春夏秋冬を描いた4作を発表しています。
「喜劇と格言シリーズ」
飛行士の妻(1980) | 「人は必ず何かを考えてしまう」 |
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美しき結婚(1981) | 「夢想にふけらない人がいようか、空想を描かない人がいようか。」 |
海辺のポーリーヌ(1983) | 「言葉多き者は災いの元」 |
満月の夜(1984) | 「二人の妻を持つ者は心をなくし、二つの家を持つ者は分別をなくす」 |
緑の光線(1985) | 「ああ、心という心の燃える時よ来い」 |
友だちの恋人(1987) | 「友だちの友だちは友だち」 |
この作品を含む「喜劇と格言シリーズ」は、恋愛をテーマに描いた会話劇が多いです。
「喜劇と格言シリーズ」という事で、各作品の冒頭にはその作品についての「格言」が出てきます。その「格言」が作品のテーマになっているので、ストーリーにすんなりと入っていく事ができます。
自由奔放な女性、ルイーズを演じたのはパスカル・オジェです。
またこの作品においては、俳優だけとしてではなく、室内装飾も彼女が担当しています。
母親は女優のビュル・オジエで、1981年にジャック・リヴェット監督作「北の橋」で親子共演しています。
とても雰囲気があって、とても魅力的な女優さんなのですが、この作品が公開された2か月後、心臓発作のため25歳の若さでお亡くなりになります。
パスカル・オジェと親交の深かったジム・ジャームッシュ監督は、自身の監督作品である「ダウン・バイ・ロー」(1986)を彼女に捧げています。
ルイーズの友人オクターブを演じるのは、ファブリス・ルキーニです。
ファブリス・ルキーニは、エリック・ロメール監督作品にも数多く出演しています。
彼が出て来ると、ちょっとうれしくなる私がいます。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
3ウサコックです。(最高4ウサコック)
縛られる事を嫌い自由を愛するルイーズを中心に、彼女とはいつも一緒にいたいと思っている恋人のレミ、既婚者でありながらルイーズを口説き落とそうとする友人のオクターブの3人の人間模様を描いている会話劇です。
「二人の妻を持つ者は心をなくし、二つの家を持つ者は分別をなくす」という格言から、話は予測しやすいと思います。
ルイーズを演じるパスカル・オジェがとても魅力的で、この作品の見どころの1つです。
また、部屋のインテリアや小物類などに赤、青、黄の原色が多く使われており、スタイリッシュです。
ただ、パーティーシーンやルイーズの髪型などに時代の古さを感じます。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほどマニア向けの作品となっております。
3カプサ君です。 (最高4カプサ君)
登場人物3人の恋愛観は、どれもタイプの違うものなので、自分自身、または自分の周りに同じ恋愛観の人がいると思います。
ですので、とても身近な話に感じますし、重たい内容でもありません。
ただ、会話劇なので、退屈に感じる人もいらっしゃると思います。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
ピート・モンドリアン
ルイーズとレミが住んでいた部屋に飾られていたのが、ピート・モンドリアンの「コンポジション」という作品です。
ピート・モンドリアンは、19世紀末から20世紀にかけて活躍したオランダの画家で、抽象絵画の創始者と言われています。
抽象絵画とは、具体的な人物や、風景など、実際にある「物」をモチーフとして描くのではなく、作者の内面やイメージなど、描かれる対象が存在しない絵画の事を言います。
こちらの「コンポジション」は赤、青、黄の3原色の四角形で構成されており、シンプルでありながらも、とても印象に残る作品です。
この「コンポジション」が建築やファッションの世界にインスピレーションを与えたという点を考えると、インテリアデザイナーのルイーズと建築家のレミの同居する部屋に「コンポジション」が飾られているのも納得です。
また、部屋にある小物やインテリア、また登場人物の衣装などにも3原色である赤、青、黄の色がふんだんに使われています。
ルイーズの巻いているマフラーの色が、月日が経つにつれて、赤からピンク、青と変化していくのが、レミとルイーズの関係が冷えていくのを示唆しているように感じました。
その②
ルイーズ
ルイーズは、15歳から彼氏が切れた事がありません。非常にモテる女性です。
束縛されることを嫌い、自由に遊んでいたいという考えの女性で、恋人から結婚を持ちかけられると別れる、といった恋愛を繰り返してきました。
「常に彼氏がいるため、1人の時間が欲しい」と言ってパリの部屋に移り住みますが、1人になると、友人に電話をかけまくり、遊ぶことができる暇な人を探しています。
そんなルイーズは男性に対し、無意識のうちに思わせぶりな態度をとっています。
ルイーズに気がある男友達のオクターブが、腕や肩を触ったり撫でたりしても、拒否する事はありませんし、オクターブの前でノーブラの肌着姿でいてもまったく気にしません。
これはフランスと日本の文化の違いなのでしょうか?
そんな思わせぶりな態度が男性を惹きつけているのでしょう。「友だちはほとんど男だ」とルイーズは話しています。こういった女性は同性には嫌われるタイプだと私は思いました。
そんなルイーズにも信念があり、「肉体だけの関係は持たない」と言います。しかし、それもバスチアンとの出会いであっさり崩れてしまうのですが・・・
ルイーズは友情から恋愛に発展するタイプではなく、友情と恋愛感情はまったくの別物というタイプの人物で、こういった考えの人は男性より女性に多いように個人的には思います。
男性はすぐ勘違いしてしまうので気を付けないといけないですね。
ルイーズは常に愛される立場の女性でした。今回ルイーズは、自分の中にあるレミへの愛情を確かめるために、バスチアンと浮気をしたといいます。
レミの自分に対する愛情がなくなることなど考えてもいませんでした。
自分がモテる事を自覚しているルイーズにとっては当然の考えだと思います。
結果、ルイーズはレミに振られてしまいます。
そんなルイーズを見て「自業自得だ、ざまあみろ」と感じた人もいらっしゃるでしょう。
ただルイーズはこの後、幸せな人生を歩むと予想します。
なぜなら、彼女にぴったり合う結婚相手はお金持ちの社長だからです。
お金持ちの社長ともなると、休みもそれほどなく一緒にいる時間もあまりないので、彼女にとっては理想の旦那様となるでしょう。時間もお金も自由に使うことができますから。
また、ルイーズはそんな男性を捕まえることができるポテンシャルを持っています。
結局、ルイーズのような美人で思わせぶりな女性は幸せな人生を過ごすことになると思います。
その③
分かりやすい会話劇
物語の終盤で、ルイーズがカフェで始発を待つ間、隣で絵を描いているおじさんと話をするシーンがあります。
セリフの少ない重ための作品などでは、こういったシーンの場合に、ルイーズの表情やしぐさ、または比喩などによって、ルイーズの心情を表現することが多いと思います。
観ている人は、その表情やしぐさを見て、ルイーズの気持ちを想像します。
しかしこの作品では、ルイーズは自分の想いや心情をすべてセリフで語っています。
それは、この後に訪れる「レミと別れる」という話のオチを効果的に見せるため、観ている人に「ルイーズがレミを愛していることを再確認した」ことを知っておく必要があるからです。
話のオチに向けて導線を作り、観客を導いています。
全体的に会話で作られている作品なので、セリフを使って心情を語っていても不自然には感じません。
このように登場人物の気持ちをセリフで説明しているおかげで、とてもわかりやすく、軽やかな作品になっていると思います。
最後に
この作品の見どころは、やはりパスカル・オジェでしょう。
1つの場所に留まることを嫌う、自由奔放な女性を見事に演じており、彼女はこの作品でヴェネチア映画祭の女優賞を獲得しています。
彼女にとってこの作品が最後の作品となってしまうのですが、「もっとパスカル・オジェをスクリーンで観たかった」と感じさせる作品でした。
アメリカの映画監督、ジム・ジャームッシュ監督は、1986年公開の自身の監督作品である「ダウン・バイ・ロー」をパスカル・オジェに捧げています。
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