「北の橋」はどんな映画?
今回ご紹介するのは「北の橋」です。
この作品は1981年製作のフランス作品で、監督はジャック・リヴェットです。
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目次
作品情報
監督 | ジャック・リヴェット |
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製作年 | 1981年 |
製作国 | フランス |
上映時間 | 127分 |
キャスト | ビュル・オジエ(マリー) |
キャスト | パスカル・オジェ(バチスト) |
あらすじ
刑務所から出所したばかりのマリーは、不思議な女性のバチストと出会い、「運命を感じた」というバチストと行動を共にすることとなります。
マリーは彼氏であるジュリアンと再会するのですが、ジュリアンの持つカバンを狙う「謎の男」の存在を知ったバチストは、ジュリアンのカバンをすり替えます。
マリーとバチストが、ジュリアンのカバンの中を確認すると、そこには、新聞の切り抜きとパリ市内の地図が入っていました。
パリ市内の地図にはマス目が書いてあり、これを「すごろく」と見立てたマリーとバチストは、地図の秘密を解明するべく、「すごろく」に沿って街を移動していくのですが。。。
ジャック・リヴェット監督
代表作
修道女 | (1966) 出演 アンナ・カリーナ |
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アウト・ワン | (1971) 出演 ジャン=ピエール・レオ |
セリーヌとジュリーは舟でゆく | (1974) 出演 ジュリエット・ベルト |
北の橋 | (1981) 出演 ビュル・オジエ |
美しき諍い女 | (1991) 出演 ミシェル・ピコリ |
ジャック・リヴェット監督は、1950年代に始まった映画運動である「ヌーヴェルヴァーグ」を代表する監督の一人です。
「ヌーベルヴァーグ」を代表する監督たちは、「カイエ・デュ・シネマ」という映画誌で、映画評論家として活躍していました。ジャック・リヴェット監督もその一人で、後に、「カイエ・デュ・シネマ」の編集長を務めます。
「ヌーヴェルヴァーグ」の最初の作品と言われているのが、ジャック・リヴェット監督の短編作品「王手飛車取り」(1956)です。
この作品は、「ヌーヴェルヴァーグ」を代表する監督たちが脚本や、出演者として参加しています。
「美しきセルジュ」や「いとこ同士」を監督したクロード・シャブロルが共同脚本として参画し、出演者として「勝手にしやがれ」や「気狂いピエロ」の監督、ジャン・リュック・ゴダール、そして「大人はわかってくれない」や「突然炎のごとく」の監督、フランソワ・トリュフォーがカメオ出演(ゲストとしてほんの短い時間出演すること)しています。
この作品を皮切りに、ヌーヴェルヴァーグを代表する監督たちは、次々と短編作品を発表していきます。そして、そうした若手監督たちの活動は、大きな映画運動へと発展していき、映画界を席巻することとなります。
ジャック・リヴェット監督の代表作は、1991年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した「美しき諍い女」や、上映時間12時間40分の大作「アウト・ワン」などがあり、生涯で32本の作品を手掛けます。
そして、2016年、87歳で永眠されます。
キャスト
刑務所から出てきたマリーを演じているのが、ビュル・オジエです。
ビュル・オジエは1969年製作の「狂気の愛」でジャック・リヴェット監督作品に出演して以来、ジャック・リヴェット作品の常連俳優となります。
女優としてだけなく、「セリーヌとジュリーは舟でゆく」(1974)や、この「北の橋」では共同で脚本も担当しています。
不思議で謎の多い女性バチストを演じるのは、パスカル・オジェです。
パスカル・オジェは、マリーを演じたビュル・オジエの娘で、この作品で親子共演を果たしました。
雰囲気があって、とても魅力的な女優さんなのですが、1984年に心臓発作のため25歳の若さでお亡くなりになります。
パスカル・オジェと親交の深かったジム・ジャームッシュ監督は、自身の監督作品である「ダウン・バイ・ロー」(1986)を彼女に捧げています。
この作品が最初で最後の親子共演になってしまったのが、残念でなりません。
ウサコックのおいしさ(おもしろさ)指数
3ウサコックです。(最高4ウサコック)
マリーとジュリアンを取り巻くサスペンス的な要素と、バチストの中二病をこじらせたような行動が混ざり合い、すごろくに見立てたパリの街を「ロールプレイングゲーム」さながらに謎解きをしていくという、他にはあまりない作品に仕上がっています。
ヌーヴェルヴァーグ作品の特徴の1つでもある「ロケ中心の撮影」を用いており、独特の世界観が感じられる作品です。
カプサ君の激辛(マニア度)指数
カプサ君の数が多いほど、マニア向けの作品となっております。
3カプサ君です。(最高4カプサ君)映画好き向けの作品です。
独特の世界観で、説明も少ないため、よくわからない部分が多々あります。
そういった部分を想像して楽しめる方にはオススメです。
ドン・キホーテ
この作品は、スペインの作家、ミゲル・デ・セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」をモチーフにしています。
この小説「ドン・キホーテ」は1605年に出版された作品で、前編、後編の2部作となっています。
ストーリーをざっくり紹介します。
「騎士道物語」という本にハマった貴族のアロンソ・キハーノは、この本にハマりすぎて、現実と物語の区別がつかなくなってしまいます。そして、自らを「ドン・キホーテ」と名乗り、今では本の中でしか存在しない「騎士道」を自ら実践し、各地で珍事を起こしていく
といったお話です。
中でも、巨大な風車を「巨人」と思い込んだドン・キホーテが風車に突っ込むエピソードが有名ですね。
この作品でも、似たようなシーンが出てきますので、この「ドン・キホーテ」を読んでから、この作品を観るのも面白いと思います。
感想と考察(ネタバレあり)
その①
偶然と運命
バチストは、マリーと街で偶然何度も出会います。
「1度会うのはまぐれ、2度目も偶然であり得るけど、3度なら運命」
そう言って、マリーと行動を共にします。
マリーにとってバチストは運命の人でした。
バチストがジュリアンのカバンをすり替えることがなければ、マリーは愛するジュリアンに殺されることはなかったかもしれません。ただ、闇の組織に殺されることは避けられなかったと思います。
マリーが愛する人の手で殺されることがよかったのか、悪かったのかは別として、そのような運命に導いたのはバチストです。
では、バチストの運命の人はというと、最後に空手の指導を受けたマックスです。
バチストとマックスは2度偶然に出会っています。
1度目はバイクに乗るマックスをバチストが煽るところ、2度目は街のカフェで新聞を読んでいるマックスとすれ違うところ、そしてカバンを狙うマックスに出会い、3度目の出会いとなります。
マリーにとっての運命の人であるバチストは「死」に関する運命をもたらしたのに対し、バチストとっての運命の人は「生」を与えました。
この運命の対比がおもしろいところです。
その②
バビロンって何?
バチストが初めて登場したシーンで「さあ来いバビロン」というセリフがあります。
この「バビロン」とはどういう意味なのでしょうか?
「バビロン」とは、ジャマイカの言語である「パトワ語」で、「国家権力」や「警察」といった意味があります。
この「バビロン」という言葉は、「レゲエ」や「ヒップホップ」でよく使われており、「資本主義社会」や、「都会」「警察」「国家」といった不条理な権力を表すときに、この言葉が用いられています。
ですので、バチストはパリに訪れて「不条理な権力の象徴」に宣戦布告しているということになります。
その③
「マックス」って何者?
バチストが「マックス」と呼んでいる人々は一体何者なのでしょうか?
バチストはこう説明しています。
「マックスは至るところにいる。ヤクの売人、監視人…番人よ」
「人を調べあげ、張り込み、時に実力行使に出て、銃撃戦になることもある」
「会話を録音し、行動を見張り、常に監視することで相手を苦しめる」
バチストの言葉から推測すると、フランスの秘密国家機関に属する者を「マックス」と呼んでいたのではないでしょうか?
「バビロン」が「国家」という意味であると前述しました。
なぜバチストが「さあ来い、バビロン」というセリフの意味を考えると、「マックス」は「バビロン」側の人間、すなわち「国家権力」に属した人間と考えられます。
では、バチストに空手を教えた「マックス」とは何者なのでしょうか?
ジュリアンに賭けに負けてカバンを取られてしまった人物こそ、この空手「マックス」です。
ジュリアンのカバンをすり替えようとしたとき、彼はフルフェイスのヘルメットをかぶっていました。
これは、ジュリアンに顔ばれしているという証明になるでしょう。
また、カフェではたくさんの新聞を広げていました。
このシーンも、カバンに新聞の切り抜きのファイルが入っていたことと繋がります。
こうした事を鑑みると、空手「マックス」がカバンの持ち主であると考えるのが自然ではないでしょうか。
その④
「マックス」の属する組織って?
「マックス」が「国家権力の組織の人間」だということは先程述べました。
それを裏付けるシーンがあります。
マリーが、工事現場で、空手の「マックス」と出会い、ジュリアンからの伝言を読み上げるシーンで「昼は権力の、夜は力のもの」というセリフがあります。
このセリフは、「昼」すなわち、日の当たる人(かたぎの人)は国家権力(秘密機関)に対応を任す。その代わり、「夜」つまり、日の当たらない人(裏稼業の人)は、闇組織の問題だから国家権力は手を出すなというメッセージだと解釈しました。
つまり、「バチスト(昼)の扱いは国家権力に任す、マリー(夜)に関しては闇の組織に任せてくれ」というメッセージだったのではないでしょうか。
つまり、「マリーを殺すことを見逃せ、そのかわり地図を渡す」という交換条件の意味合いがこのメッセージに含まれていたと推測します。
と考えると、空手「マックス」は闇組織の内情もよく知っていたので、「国家に属す権力側の人間」であると考えられます。
ですので、この空手「マックス」のミッションは、マリーを守ることでも、ジュリアンを捕まえることでもなく、マリーが殺されるのを見逃すことと、バチストを巻き込まないようにすることだったのでしょう。
最後のシーンで、バチストに空手を教えた理由は、バチストの気を引いて、マリーのところに行かせないためだったと考えられます。バチストがマリーのところに行くと、力(闇組織)に巻き添えとして殺されてしまう可能性があります。
一般市民であるバチストが殺されてしまうと、さすがに国家側も静観しておくわけにはいきません。そういった事態を避けるため、バチストを足止めする必要があったのです。
空手「マックス」はバチストが撃った拳銃をハンカチでくるんで「証拠品」として押収しました。
バチストは殺人の罪で逮捕されることでしょう。そして、「精神に異常をきたしている」という理由で、精神病院に入れられると予想します。
「マリーは殺された」「殺し屋がいる」などの真実をバチストが主張したとしても、精神病患者の妄想として片づけることができるからです。
最後、空手の特訓を受けているバチストはカメラで撮影されていました。
これは国家機密を守るために、国家機関がバチストを監視していたということになります。
「マックス」に監視されているというバチストの「妄想」が「現実」になったというラストが、ユーモアが効いていておもしろく感じました。
その⑤
バチスト
バチストは「よそから来た」と言っていました。
この「よそ」とはどこなのでしょうか?
考えられるのは、精神病院です。
社会から遮断された病院は、「よそ」と呼ぶにふさわしい場所です。
バチストは、いつも誰かに監視されていると思い、ポスターの目の部分をナイフで切り取っていました。
これは統合失調症という病気の症状に当てはまります。また、滑り台をドラゴンを見立て戦ったりするなどの「妄想癖」があるところもこの病気の特徴です。
バチストは、この病気の治療のために入院していたのではないでしょうか。
バチストの言動を見る限り、退院してきたとは思えないので、病院を抜け出してきたのではないかと推測します。
バチストが登場するシーンでは、白いヘルメットをかぶり、白いバイクに乗っていました。
このバイクが病院のもので、病院の所有物だとわかるように(患者を刺激しないようにという理由もあるかもしれません)白く塗られていたと考えると、バチストが病院のバイクを奪って逃亡した説も信ぴょう性が増すのではないでしょうか。
その⑥
すごろく
ジュリアンの持っていたカバンに入っていた地図をみて、マリーとバチストは「すごろく」だと思い、パリの街を徘徊しました。
ほんとうにあの地図は「すごろく」だったのでしょうか。
まず、カバンに入っていたのは、マス目のように区切られたパリの地図、そのマス目と同じ形で、暗号のような文字が書かれた黒い地図、そして新聞の切り抜きで作られているファイルでした。
黒い地図とマス目に区切られたパリの地図は同じものです。そして、新聞の切り抜きの上部に書かれていた文字は、黒い地図の文字と同じだと思われます。
つまり、新聞の切り抜きの事件が起こった場所が、黒い地図とパリの地図を組み合わせると分かるといった構造になっていたのではないでしょうか?
もしかすると、「マックス」にも地域ごとに担当が決まっていて、この地図と切り抜きを見ると、その作戦を実行したのがどこの地域の「マックス」かがわかる、もしくは、次の作戦がどこで行われるかが判明する、そういったことがあの地図と切り抜きを見るとわかる内容だったと考えます。
空手「マックス」は「あの地図を見てもどうせ意味がわからないだろう」と思って、カバンを渡したのだと思います。
かといえ、「国家機密」である情報のため、取り戻すのに躍起になっていたといったところでしょうか。
最後に
この作品が、ビュル・オジエとパスカル・オジェの最初で最後の親子共演となりました。
独特の雰囲気を持っているパスカル・オジェ。「彼女の作品をもっと観たかった」と思った人も多いことでしょう。私もその一人です。
最後の、バチストが空手を教えてもらうシーンで彼女が見せていた笑顔がとても印象的でした。あれは演技ではなく、相手俳優のアドリブで本当に笑ってしまっているように感じました。あのシーンを見ると、彼女の「素」の部分が垣間見れたような気がして、個人的にお気に入りのシーンの1つです。